2022/12/05 【キャット&チョコレート 日常編】

 あっという間に部屋の中は街中のクリスマスの日、さらには日曜日であるそれより喧騒に満ちあふれていた。前回の会の期待度もあってか入ってきた子どもたちの表情は前回よりもわくわくしているように見えた。一緒にテーブルを囲んだ子たちも同様だ。こちらを見ると嬉しそうに手を振ってくれたりもしたのだけれど、正直心からの笑顔で返せて気がしない。引きつった表情になっていたのだと思う。


 Welcome to……を遊んでいるうちはまだ大丈夫だったのだ。みんなちゃんと話を聞いてくれたし、真剣にゲームに取り組んでくれていた。しかし、そのあとがいけなかった。準備不足がたたって各テーブルに分かれて遊ぼうと思っていたのだけれど準備している間に子どもたちがはしゃぎだしてしまった。


 さきほどWelcome to……で出来上がった自分たちの街を見せあっていてこちらの話を聞いてくれなくなってしまったのだ。いくら俊彰としあきが大声を出してもこちらを注目してくれやしない。誰かに協力を得ようにも近くに大人はいないし呼びに行っている間にこの状況がどうなってしまうかもわからない以上離れることもできない。だれかこの部屋を出ていっただけでも大事だ。


 ハルであれば陽気にみんなを注目させる手段を知っているだろうが今の俊彰には叫ぶことしかできない。でもトナカイが何かを叫んでいる様にしか見えないらしくキャッキャッ、キャッキャと笑われるだけだ。


 どうすればいいのだと、その場で立ち尽くししてしまった。これがボードゲームであればどうすればいいかの選択肢が与えられる。例えばキャット&チョコレートがそうだ。ビジネス編やホラー編、学園編などもあるが日常編というのが一番手に取りやすい。


 今みたいなトラブルが起きたと仮定して手元にあるアイテムカード三枚を使ってどう切り抜けるかをアドリブでみんなに説明するのだ。それが納得できるかできないかは一緒に遊んでいるメンバー次第。どう説得するのかが鍵の大喜利ゲーム。


 ゲームみたいに選択肢があればどうにかなるのか。そうひたすらに考える。考えている暇があったら声を掛け続けるべきなのは分かっているのにも関わらず声もどんどん小さくなっていくのが自分でもわかる。


 全部ハルがいけないんだ。そんな考えが頭をよぎる。当日になってドタキャンなんてどうかしている。


 子どもたちも楽しそうだしもうこのまま騒いでおしまいでもいいんじゃないだろうか。一個はやったし、主催者も納得するはずだ。


 もう諦めよう。やれることはちゃんとやったじゃないか。そう自分に言い聞かせればいい。仕事じゃない。お願いされただけだ。


 ボードゲームみたいに想定通りにはいかないんだ。始まる前の自分の考えの甘さも嫌になる。もっとなにかできることがあったのかもしれないけれど。今となってはどうしようもない。


 諦めようとしたその時だ。


 この前の小四男子がいつのまにか俊彰のそばにやってきていた。

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