2022/12/04 【Welcome to……】

 予めゲームで使う紙とペンを机の上に配って置こうと決めたのはあまりに落ち着かなかったのも大きい。とにかくやれることをひたすら探した結果だ。部屋に装飾されたクリスマス飾りがひとりの空間では大げさに感じられる。


 一通り配り終えたあとに時間を確認するためにスマホを手に取る。子どもたちが来るまでまだしばらく時間があった。そのまま流れるようにLINEを開いてしまう。


『ほんとうにごめんさない。急用ができて行けなくなっちゃったの。当日のことお願いできるかな』


 メッセージが届いたのは俊彰としあきが会場についてからだ。慌ててクリスマス会の主催の人に報告したのだけれど、どうしようもないし、この前もしっかりしてたからひとりで大丈夫だよねっと念を押されてしまった。


 ハルをどういうことか聞きたかったけれど、メッセージを送っても既読にすらならない。せめて訳だけでも教えてくれれば納得できたのかもしれないのに、このままではもやもやするだけだ。


 落ち着くために深く息を吸って吐き出す。これからどうするかをひたすらイメージを固めていく。ボードゲームと同じだ。目的を定めてそこに向かって方法や手段をつかって勝利を目指す。相手が子どもたちであるので想像通りにいかないかもしれないがそこは前回の経験を生かしてなんとかするしかない。


 本当は前回同様ピクテルからスタートしたかったのだけれど、ひとりでは難しいと判断して用意しておいたWelcome to……をやることにした。紙とペンを使ったゲームで街の一区画をめくったカードに従って作成していくゲームだ。めくれた建物をどこにたてるかがそれぞれ個性が出て。大人数でやるとその違いでも盛り上がれるとあって店長おすすめのゲームだ。


 上手くいくのだろうか。事前準備はしっかりとしてきたつもりだけれど、それはハルが隣にいるのが前提の話だ。ふたりでやるものをひとりできるのか不安で仕方がない。


 ついスマホを見てしまう。今この瞬間にも既読がついて、行けるようになったから向かうねと送られてきてほしい。言いたいこともたくさんあるけどそれならば水に流すこともできる。でも。いくら待っても既読はつかないままだ。


 入り口のほうが賑やかになってきた。どうやら子どもたちがあつまってきているみたいだ。サンタクロースとトナカイの格好をする予定だったのだと急に思い出して着替えに向かう。当然のようにハルがサンタで俊彰がトナカイの予定だった。用意してある着る人がいないサンタ服がハンガーに吊るさっている。


 それをぼんやりとみながら服の上からトナカイの格好になるべくぶかぶかの服というかきぐるみに似たものを着ていく。ひとりでこんなことをするなんて恥ずかしさしか出てこない。サンタがいないんだから着る必要なんてないのかもしれない。でも。ほかにどうしていいのかわからなくて。予定通りにことを進めることにした。


 サンタクロースがいないクリスマス会が始まろうとしていた。

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