2022/12/03 【プロジェクトL】
「なぁ。としくんもこっち来て一緒に遊ばないか?」
コンポーネントの数を数えているのに声を掛けられてせっかく数えていた数字を忘れて思わず声の主である目黒さんを睨みつけてしまう。
「おっ。怖い顔してどうした。仕事中だからこっちに加われなくて拗ねてるのか」
誘っておいて随分な物言いだと思いもするが相手にしすぎても仕事が進まないので適当に返事をしておく。
「ちょっと目黒さん。仕事中のとしくんを誘惑しなでくれよ。それに三人でも十分盛り上がっていたじゃないか」
店長の言う通りだ。目黒さんたちが遊んでいるのはプロジェクトLだいわゆる拡大再生産系のゲームなのだが特徴はテトリスのブロックのようなものを集めて手元に置いたパズルを完成させていくんだ。完成させたパズルに勝利点がついていてそれを集めるのが目的だ。
パズルを完成させる感覚と勝利点を稼ぐ感覚が全く違うのにゲームとしては噛み合っているのが不思議な気分にさせてくれるゲームだ。
「まあまあ。としくんがあんまりにも真面目に仕事してたからな。ちょっとからかいたくなったんだよ」
そんな理由で一から数え直さなくてはならないのか。まあ、でも今は比較的人も少なくて忙しくはない。店長からもゆっくりでいいから着実にねと言われているのでもう一度数え直し始める。
一、二、三、四。ボードゲームの中で特に多いのはコインだ。それを一枚一枚手に取りながら頭の中で数えていく。
十二、十三、十四、十五。そこでお店の扉が勢いよく開いた。
「ねっ。としくんいるっ!?」
店長がいらっしゃいと言う間もなく入ってくるなり声を上げたのはハルだった。数えていた数字が頭からまた消えてしまって諦めて手に持っていたコインをテーブルに置く。
「いますよ。どうしたんですか。そんなに慌てて」
息を切らしているハルが落ち着くのを待つ。それにしてもどうしたのだろうか。最近は珍しくもないがそもそもひとりで来ること自体が珍しいのだ。それが慌てた様子で来るなんて。遊びに来たようにも見えない。
「この前ボードゲームやったところでクリスマス会もやってくれないかって頼まれちゃってさ。クリスマスって予定ある?」
絶対にそうじゃないって分かっていてもその言葉にはドキッとしてしまった。えっと、と店長の方を見る。クリスマスは日曜日で普段であれば
「いいんじゃない。うちは大丈夫だよ」
「ですって。予定はなくなりましたよ。大丈夫です」
店長の言葉を聞いていただろうに俊彰の言葉を聞いてから表情が明るくなったハルにこっちが恥ずかしくなる。
「子どもたちがこの前の会をすっごい喜んでくれたらしくて、次はいつやるんだって要望が多かったんだて。やったねとしくん」
手のひらをこちらに向けてきたハルに一瞬、なんのことかわからなかったけれどハイタッチを求められているのだと気づき慌てて手を持っていく。そのせいか気持ちいい音はしなかったかれど。心のなかでは晴れやかな感覚があった。
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