2022/12/02 【トマトマト】

「おっ。としくん随分と楽しそうだね。よっぽと今日のイベントが楽しかったってことかい」


 寄る必要もなかったのにセカンドダイスに足が伸びてしまったのはイベントの余韻が心の奥でくすぶっているからだと思う。気がつけば目の前には店長の顔がある。


「楽しかったですよー。もう、大盛りあがり!」


 そして後ろにはハルがいる。なんでか知らないけれどついてきたのだ。ここに来るまでの道すがらもずっと今日の感想を言っていた。とくに子どもたちの表情のことを話していることが多くて、子どもが好きなんだと言うことが伝わってきた。なんでも子どもの頃お世話になった場所だったらしく、ハルのことを知っている人も多かったしハルが子ども扱いされているのも初めてみた。


「よかったら遊んでいくかい?今日はなんでだかお客さんが少ないから空いてるテーブル使っていいよ」


 急激に外が寒くなってきたのも影響するのかもしれない。もう十二月。今年もあと少しで終わってしまう。


「店長。この店がなくなったら私困りますよ」

「大丈夫。十二月はこれからだし、こっから忙しくなるから。という訳でとしくんにも頑張ってもらわないとね」


 店長の言葉に多少の不安を覚えるもののなんとか乗り切れそうな気がしてくる。子どもたちの楽しそうな顔が見れたからか。たった数時間なのに濃い時間だった。なんだか元気を貰った気がした。


 それにこれからもお客さんの笑顔を見れるだと思うとここで働き続けるってことは元気をもらい続けられることなのかもしれない。大変なことも多いけれどそれが嫌じゃない。そう思える。


「さてと。としくん何して遊ぼっか。子どもたちがボードゲームで遊んでいるのみたらやりたくなっちゃったよ」


 テーブルにつくでもなくセカンドダイスの棚に積められているボードゲームを吟味し始めるハルにお思わず頬が上がるのが俊彰自身も自覚した。


「いいですよ。好きなやつ選んでください」


 うんうん頭を悩ませながらハルが持ってきたのは手のひらに収まるくらいの小さな箱だった。


「えっ。トマトマトですか」


 トマトマトは『ト』、『マ』、『マト』、『トマト』を使った早口ゲームだ。サイコロを振ってその出目に従ってカードを順番に並べていく。『ト』『マト』『マ』がでたらトマトマと早口で言っていくゲームだ。間違えなければ間違えないほどこれは長くなっていき、仕舞には謎の呪文が生まれる。そして間違えたときに欲しいカードを取る条件などもあって考えることも多少あるのだけれどメインは早口。それでなんでこれを今持ってきたのかと思えば。


「だってみんなの前で喋ってるとき口がうまく回らなかったときがあったんだよ。ちょっとでも練習したいなと思って」


 それはわからないでもないし、俊彰だってもっと上手にしゃべれればいいなと思った。でもそれすらもボードゲームと絡めてしまうハルにとてもじゃないがボドゲ好き加減ではかなわないなぁと。苦笑いするしかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る