2022/12/01 【ito】

「なるほどねぇ。まあわからないでもないけれど。難しく考えすぎじゃない?」


 俊彰としあきがひたすら悩んでいたことをハルはあっけらかんと簡単に言ってのける。なんだなんだとテーブルを囲んでいる他の四人もハルに視線が集中している。すでにみんながさっきまでに比べて集中しているように見えるのは気のせいだろうか。気のせいでないのだとしたらどうしてのなか。自分とハル。そこになんの差があるというのだろう。


 俊彰がそう気にしている間にもハルはもう一度ルールの確認をしながら、次のように付け加えた。


「ちょっとだけ考え方にコツがあるのよ。数字をなにかに例えればいいの。そうねぇ。動物の大きさを表しているのを想像して。一だったらアリとか八十だったらゾウさんとか」


 急に例え話をし始める。それはでも数字の大きさとなんにも違わないんじゃないかと思う。動物に例えたって数字だって大きさに違いはない。それで伝わるわけがない。


「じゃあ、いま出した五十一はなんだと思う」


 小四男子に問いかける。彼はうーんと頭を悩ませたあとにトラとか?と答える。


「おー。いいじゃんいいじゃん。そしたらさ、こっちは」


 俊彰のカードを奪い取るとそれを場に出したそれは二十四のカードだ。五十一との差は二十七。単純に半分くらいだと考えるとトラからしたらヤギとかひつじあたりだろうか。


「うーんと……犬!」


 それじゃあ小さすぎるだろう。犬にもいろんな種類がいるから一概には言えないけれど全体的に小ぶりだ。


「おっ。いいんじゃない。今度はこのふたつを比べてみてどっちがどれくらい大きいかわかりやすくなったよね」

「えー。うん。まあ?」


 自信なさげだけれど先程と違って小四男子は楽しそうだ。


「じゃあさ、トラを持っていた君は犬とかが出る時間を作らなきゃいけないわけだ。小さいのから順に出さなきゃいけないわけだからね。それはわかる?」

「うん」

「逆に小さい数字一とか二を持っていたらすぐに出さなきゃいけない。それもわかるよね」

「うん!」


 本当にこれで上手くいくのか不安だったけれど、やる気になったのならやるしかない。


「さっ。あとはとしくんの腕の見せどころだよ。がんばってね」


 ハルは元いたテーブルに呼ばれて行ってしまった。


「じゃ、やろっか」


 結果としてみればクリアはできなかったけれど、楽しく終えることができた。小四男子はタイミングを図ることを覚えてたし、それに合わせて他の三人もうまい具合にカードを出すことができたし、ミスをしても盛り上がることができた。


「なんで、あんな簡単に納得させられたです?」


 会が終わって片付けを手伝いながら俊彰はハルに問いかけた。ずっともやもやしていたらだ。


「えっ。さっきのこと?」


 こくりとうなずく。ハルはしたり顔でにやにやしている。もしかして意地悪して教えてくれないのか。


「ほらitoってゲームあるじゃん。相談していいザ・マインド」


 確かにある。テーマを決めてそれぞれ自分の数字がテーマの中でなに相当なのかを宣言し全員でその順番を決めるゲームだ。数字を言えないが各自それぞれの数字に対するイメージの差が面白くテレビとかでよく紹介もされたりしている有名なボードゲームだ。


「子どもたちだと相談するのがややこしいかなと思ってザ・マインドにしたんだけど。よくよく考えてみたら数字をなにかのイメージに変えるってわかりやすいと思ったんだよね。まあ、としくんが難しく考えすぎなだけだよ。ゲームなんだし楽しめればそれでいいんじゃないか」


 俊彰にはわからない理論だ。ボードゲームをやってて楽しいのは理論的に考え続けてパズルを解くみたいにパチリとピースがハマったときだ。それが楽しいものだと思っていた。


 でも。


「あの笑顔が答えですよね」


 ハルが来てからのみんなの顔がすべてだ。ボードゲームカフェで働いている以上、それはよく分かる。帰り際のお客さんの笑顔でなくてはならないよ。そう店長も言っていた。


「ボードゲームって難しいですね」

「えっ。としくん私より全然ボードゲーム強いじゃん。なにいってんの」


 そういうことじゃないんだけどな。どう説明していいかわからなくて言葉を濁した。

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