2022/11/30 【ザ・マインド】

「えっと。じゃあ出すね。いいんだよね?」


 自分がそう感じた瞬間に出せばいい。それに相談はしてはいけないんだよ。そう最初に説明した気がするのだけれど不安が勝ってしまったのかそうテーブルを囲んでいる全員に問いかけてくる。


 全体でピクテルを遊んだあと、それぞれのグループに別れていくつかのボードゲームをすることになった。それでこのテーブルを任されたのが俊彰としあきだ。テーブルには中学生がひとりに小学六年生がふたり。今、不安そうにみんなを眺めているのは最年少の小学四年生だ。俊彰としあきも一緒にいることを考えると年上ばかりで顔色を伺いたくなる気持ちもわからないでもない。


「ねえ。いいんだよね」

「あー。いいも悪いも聞いてちゃだめだんだよっ。最初にそう説明されたでしょ」


 耐えきれずに強い言い方をしてしまったのは小学六年生のひとりで男の子だ。


「ちょっとそんな言い方ないでしょ。初めてのボードゲームだし、出していいのか不安にもなるわよ」


 間に入ったのはもうひとりの小学六年生でこちらは女の子だ。


「まあまあ一回相談ありでやってみようか。ルールとゲームの感覚をおさらいするにはいいのかもしれないし」


 そう言っては見たもののどうなるか自分でも予測はできていなかったりする。ちょっとだけというか割と先行き不安なスタートでついハルの姿を探してしまった。他のテーブルに入って楽しそうにキャッキャッしている姿を見つけたがとてもじゃないが手を貸してくれなて頼めそうもない。


「それってどうやるのさ」


 小六男子は訝しむようにこちらを見ている。頼りない俊彰に対して思うところがあるのだろう。


「まあまあ。とりあえずルールを確認しよう」


 そう仕切ってくれるのは中学生の女の子。他の子達とも知り合いだったみたいで色々と手助けしてくれる。


 今遊んでいるザ・マインドはみんなで協力してゲームクリアを目指す協力型と呼ばれるゲームだ。特にこのゲームは感覚的で斬新だ。カードが百枚用意されていてそれらは一から順番に百まで存在する。そのカードをランダムに必要枚数配るとゲームは始まる。


 ルールは簡単。全員で小さい順にカードを出していくだけなのだ。ただしそれを成すのは非常に難しい。なぜならば相談をしてはいけないししゃべってもいけないからだ。


 声を出してはいけないので参考になるのは感覚だけ。自分が持っている数字が一や百であればことは簡単なのだけれど、二十三とか六十一とかになると途端にいつ出していいかわからなくなる。はじめはひとり一枚ずつだがゲームが進むにつれその枚数は増えていく。よっぽど息が合わなければクリアは難しい。


「だから。出していいか聞くんじゃなくて感じなきゃいけないんだよ。わかるだろ?」


 小六男子が小四男子に念を押している。どうやら中学生が説明してくれたみたいだ。


「うん。分かったよ。相談しちゃだめなんだね」


 小四男子も深くうなずいてルールを理解できたように見える。


「こういうのってお兄ちゃんがやるんじゃないの?」


 痛いところをついてくる小六男子に心が痛みながらも。じゃ、やろっかと先を促す。


「う、うん。やってみるよ」


 そう言っていちばん簡単な手持ち一枚でゲームをスタートする。


「えい」


 スタート直後、小四男子が思いきってカードをテーブルの上に置いた。でもその数字が五十一と書かれていて全員が一瞬固まった。


「なんで最初に出す数字がそんなに大きいんだよ。五十あればもっと待つだろー普通」


 説明が足りていないのか、小四男子はすっかりと萎縮してしまっている。どうしていいのかわからなくなってしまい。ジト目でこちらを見てくる他の三人の視線に戸惑ってしまいどうしていいのかわからなくなってしまった。


「どったのとしくん」


 ハルがいつの間にか後ろに立っていたことにすら気付けなかった。

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