2022/11/29 【イッツアワンダフルワールド】
「これを捨てると灰色のキューブを受け取って。それをこのカードの上に置くと。これで建設できたので国家の上に移動してと」
セカンドダイスでの仕事の後、お店に残って遊んでいるのは店長と智也先輩とあとひとりここで働いている訳でもないのに顔を見せることが多い
今遊んでいるのはイッツアワンダフルワールド。ドラフト拡大再生産のゲームだ。これだけ聞くと難しそうに見えるんだけれど。一回ルールを覚えてしまえば単純作業の繰り返しだというのはすぐに分かる。けれど大量にあるカードや五つの資源をどう集めていくかによって繰り返し遊びたくなっている。事実、イッツアワンダフルワールドをこの面子で遊ぶのも何度目かもうわからない。
「それで。としくんはハルちゃんに返事したのかな」
目黒さんがにやりとしながら聞いてくる。まるで大事な返事みたいに聞こえてくるその言い方には悪意が混じっているような気がしてしまう。だいたいとしくんなんて呼んだことなかったじゃないか。
「まだしてないです」
俊彰以外のみんなはテキパキと自分の行動を決めて処理を進めている。このゲームは全員同じタイミングで処理をしていくので待ち時間も少なくていいのも魅力のひとつだ。
「なんでさ。答えはひとつじゃないか。かわいらしい先輩からの誘い。それもとしくんが得意なボードゲームの誘い。断る理由なんて見つからないね。バイトも休みなんだろう?」
断るつもりだったのにもう二日も連絡をしていない。ハルから来たLINEも既読スルーだ。どうやって返したらいいものかと悩んでいたら一日が経っていた。そして未だに返事をしていない。ハルのあの勢いからもっと急かされるのかと思ったのだけど、連絡はないままだ。
「まあまあ。目黒さん。そう急かさない急かさない。自分なりのペースでやればいいいよ。まあ、でも予定の日が近いのもあるから返事は早いほうがいいと思うけどね」
助け舟を出してくれた割にはすぐに突き放してくる店長もからかっているのだろう。この状況を楽しんでいるようにしか見えない。
「そもそも智也先輩が
そいういう話をハルから聞いている。本当はそういう予定だったとでも突然、予定が入ったと断られてしまったのだという。
「まあ、それこそ急用だったんだよ。
「まあ、卒業後も就職しないでそっちで生きていくって決めたみたいだし、焦ってるんだろうなぁ。うちの人手は足りてるからふたりとも休むことに関しては心配しなくていいよ」
まあそうなのだろうけれど。だからといって俊彰がハルと一緒にというのもなんだか妙な気がする。
ピロン。
約一日ぶりにLINEの通知が鳴った。みんなに促されながらスマホの画面を見る。
『急に無理言ってごめんね。迷惑そうなので他の人をあたります。またセカンドダイスで遊ぼーね』
そう打たれた文面を見て、ずるいと言う感想しか出てこない。こんなふうに言われたら断るに断れなくなってしまう。
「ちょっと、電話してきますね」
文字を打っている間に誰かを連絡を取られてしまっても困る。手伝えることを伝えなくては。
「ああ。行っておいで」
そう見送ってくれた店長がちょっと嬉しそうに見えた。
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