265.日常に戻ってみると、案外普通だったりする。
日常に戻ってみると、案外普通だったりする。
少しの間、妖絡みのアレコレで動いていた私だったが…
この前皆に話した通り、あれ以来防人としての仕事は無く、普通の女子高生?らしく部活に励んだりして過ごせていた。
「何も隠し事が無いなんてな」
「皆、怪しさ満点って感じだったもんね」
今日は4月が目前に迫った3月31日…
午前中は剣道部に混ぜて貰って、午後からは何も無いと言うありふれた春休みの1日。
部活が終わって片付けも終わり、制服に着替えた私は、正臣と共にバスに揺られていた。
「なんだかんだ、隠し事はしてるだろ?話してない事だってあっただろ?」
「まぁね。でも、皆の身には何も無いって分かって貰えたでしょ?」
「そうだけどもな、含みがあるんだよ。沙月の言い方は…ま、正直者だなって思うけどさ」
「なるほど…腑に落ちなさそうだったのはそういう事か」
「だからさ、何でも無くても心配するわけだ。俺もそうだけど、穂花と楓花はもっとだな」
「確かに…」
バスの最後席に並んで座って、ちょっとした"内々の"会話…
私は正臣から何気なく告げられた"話し方の癖"を頭に刻み込みながら、相槌を打った。
「だから今も安心してるんだ。ああ言っといて部活休まれたらどうしようって」
「私が何かコソコソしてるかもしれないって?」
「そうそう。真面目にはなったけども、危なっかしさは昔からだから…もう変わりようが無いだろ?だから皆心配してるんだっての」
そう言ってコツンと肩を小突かれる。
正臣は苦笑いを浮かべてる私の顔を見てフッと鼻で笑うと「この話はこれ位にしとくか」と言って一度バスの外に目を向けた。
「そういえば、この間買った参考書は?もう終わったんだっけ?」
そして、ふと何かを思いついたような顔を浮かべて私の方に向き直ると、正臣は私にそう尋ねてくる。
「あー…そういえば、殆ど終わったかな。約束通り3周したよ」
話題は、冬休み…正臣に見繕ってもらった各種の参考書や問題集の話題。
真面目ちゃんモードが続いている私は、毎日コツコツと手を付けて、数冊あったそれらを3周するまで使い倒していた。
「凄いな…この間の期末の結果はそのお陰だ」
「お陰様で…皆に教えてもらったお陰でもあるからね?」
そう言いつつ、ジーっと正臣の目を見つめると、彼は小さく笑って頭を撫でてくれる。
「この辺だけだぜ、変わってないの」
「変わらなくたっていいものがあるのさ」
正臣の手の感触を頭で感じて、んーっと目を細める私。
正臣から自発的に撫でてくれるのは滅多に無いが…こう、"良い事"があれば、目の合図だけで撫でてくれるのだ。
「それなら丁度良いな。沙月、この後って家の用事とか無しなんだろ?」
「うん。午後からは暇だったけど…あぁ、参考書でも見ようって?」
「そうそう。俺の方も、今使ってるのはもういいかなぁって頃だったから」
「どうする?このまま行くならそれでもいいけど?」
「いやぁ、荷物が邪魔だし帰ってからにしよう。母さん、昼飯作っちゃっただろうし」
「それもそっか。なら、食べて準備したら正臣の家に行くね?」
「そうしよう」
後少しで私達が降りるバス停だが…
そこにたどり着くまでに、テキパキと午後の用事を決めてしまう私達。
アッサリと予定が決まると、少々浮ついた気持ちになりながらバスが付くのを待ち構えた。
・
・
そして迎えた午後、それぞれの家で昼食を取った私達はマリーナベイまでやってきて、そこにある大きな本屋の参考書コーナーで参考書を眺めていた。
「理系クラスってさ、何か選択だったよね」
「あぁ、物理と生物が選択だったっけかな」
「正臣はどっちにするの?」
「俺は物理かなぁ…何となくだけどもさ。沙月は何となく生物って気がしてた」
「やっぱりそう思うんだ。物理にしよっかなって思ってたんだけど」
「計算多いぞ?」
「……確かに苦手だけどもね、生物の方が興味無いのさ」
「なるほど」
高校も2年生になれば…思ってたよりも専門的な事をやるものだ。
大学生とか大人から見れば子供だましなのだろうけども、今の自分からはそう見える。
私は正臣と相談しつつ、この前参考書を買った時と同じ様に「正臣が選んだ2冊のうちの1冊を私が買う」という方法をとって、後で交換し合う事にした。
「こんなもんじゃないか?」
「そうだね…って言っても、大分重いけどね」
「その分頭に入るって事で。他に何か見たい本とかある?」
「んー…」
1時間近くかけて厳選して、既に7冊もの参考書が私の手元にはあるのだが…
正臣に尋ねられた私は、ふと、普段は見ない"自己啓発"のコーナーに目を止めた。
「ああいう本って、昔は胡散臭くて興味なかったのにね」
「自己啓発…あぁ、分かる気がする。売れてるみたいだけどね」
「どの層に売れてるんだか…」
何となく目に留まった自己啓発コーナー…
そこに並ぶ本を見ながら歩くが、ピンと来る本は無い。
できればこう…"組織の作り方"的な本でもあれば良いのだが…それは今度、1人で来た時にでも探すとしよう。
「正臣は?何か見たい本って無いの?」
「うん。漫画とかは電子書籍にしたんだよね。だから、紙の本は参考書だけさ」
「なるほど…電子書籍か」
「参考書とかはさ、書き込みとか、ある程度雑に使いたいじゃん?」
「んん~?…まぁ、そう言われればそうかも」
「でも、漫画とかって読み終わったら積み重なるだけでさ…売ればいいんだろうけど、結局面倒くさくなって棄てるんだよな」
「あぁ~…凄く分かる気がする。」
適当な雑談をしながらレジへ行く私達。
これからを見越した参考書を買って出てくると、外はまだまだ明るかった。
「日、長くなったね」
「あぁ…もう4時なんだけどな。なんか軽いの食べてくか?」
「そうしよう」
何も無い1日…だけども、何か自分の為にお金を使えば、例えそれが参考書だったとしても、ちょっといい気分になれるのは何故だろうか。
「ここ、何があるんだっけ」
「意外と店の入れ替わり激しいんだよな…」
「確かに。無難にドーナツとかで良いんだけど」
「それ、この間消えたんだ」
「え?あぁ、本当だ」
私は正臣の横に並びながら、マリーナベイの案内地図を見て何を食べようか話し合う。
何にもない日の平和さを、無意識の内に堪能し…正臣の隣で1人の"女子"になっていた。
「なら…ココにしない?大きなシュークリームのお店だったよね?」
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