第7話 冒険者ギルドでの情報収集

「やっと見つけたわ。大きな街というのも案外便利じゃないのね」


 服飾店を出てから一時間後、通りすがりの人に道を聞いてやっと冒険者ギルドに到着した。両開きの扉を開くと、中は武装した男達で溢れかえっていた。


『ああ、こりゃまずいね。オリビエとかギースを連れてきた方がいいんじゃないかな』

「どうしてよ。今日は冒険者登録と毛皮を売り払うだけなんだから大丈夫よ!」


 私はギルド建物の中に入り、颯爽と受付カウンターに向かって歩を進めていく。すると、途中でガラの悪そうな男三人組が絡んできた。


「おいおい、ここは嬢ちゃんみたいな子が来るようなところじゃないぜ」

「いや、もう来ちまったんだから向こうで俺たちといいことしようじゃないか」

「ふひひ、そりゃいいや。じゃあこっちに……」


 手前のスキンヘッドの男が近づいて私の肩に手を伸ばしたところで、相手の手を引いて足払いをして床に投げ打った。男は受け身を取れなかったのか、そのまま気絶してしまう。


「ごめんなさい、あなた達と遊んでいる暇はないの。他を当たってね!」

「なんだと! おい、ゲース! 二人がかりだ!」

「おうよ! さあ、観念するんだなァ!」


 逆上した二人が前後から挟撃するように襲いかかって来たので、目の前に迫った男の手を引くと同時に足を払って後ろに誘導し、頭と頭を激突させると二人とも沈黙した。


『あーあ。こんな目立つ場所でやらなくてもいいのにさ。これでフィーは一躍有名人だ』


 ジュディの言葉に周りを見ると、みんなこちらを注目していた。中には口笛を吹いて拍手しているものもいる。なんだか恥ずかしくなって足早に受付のカウンターに向かい、ギルドの女性職員に話しかける。


「あの、冒険者登録と毛皮の買い取りをお願い」

「それでは、こちらの申請用紙に必要事項を記入して提出してください」


 渡された申請用紙を見ると、名前と年齢、それから職業クラスの欄があったので手早く書いて差し出した。


「フィリアーナさん、十五歳。クラスは……え、魔法使い? 剣闘士とかじゃないんですか」

「なんでよ! この格好を見てどうして剣士や闘士が出てくるの?」

「腰の剣とか、さっきの男達を素手で沈める様子を見ていたら誰でもそう思いますよ」


 私は忌々しげに倒れている三人組に目を向ける。せっかくトンガリ帽子を被ったのに気分が台無しだわ。


「……今度からは魔法で黙らせることにする。あ、毛皮はどこに置けばいいのかしら」

「毛皮を剥いであるようでしたら、こちらで結構ですよ」

「助かるわ。はい、どうぞ」


 ドサドサドサッ!


 マジックバックからフォレストウルフ十五体とフォレストマッドベアー一体の毛皮をまとめて出してカウンターに乗せると、受付のお姉さんは慌てたようにストップをかけた。


「待ってください、こんなにあるんですか! ひょっとしてフィリアーナさんが倒したのですか?」

「ええ。魔法で窒息死させた後に剥いだから、余計な傷はついていないはずよ」

「一、二、三…フォレストウルフが十五体に、フォレストマッドベアー? こんな完全な状態の毛皮は初めてです。というか、これならFランクやEランクはスキップできますね」


 毛皮についてはフリークエスト扱いにしてくれることになり、私はDランク冒険者からのスタートになった。


「ランクが上がると買い取り価格が上がるとか何かいいこととかあるの?」

「いえ。受注できるクエストのランクが上がるだけで、素材の買い取りに関しては同じです」

「なんだ。じゃあ、別にDランクのままでいいわね」


 私は冒険者タグと毛皮の代金から冒険者登録料を差し引いた金貨三十九枚を受け取り、マジックバックに収納した。

 その後、ギルドの基本的なサービスの説明を受ける。解体も手間賃を払えばやってくれるそうだし、フォレストウルフ一体で金貨二枚、フォレストマッドベアー一体で金貨十枚なんて冒険者稼業もなかなかいいかもしれない。開業して客商売をするか気ままに冒険者になるか迷ってしまうくらいボロ儲けじゃない。


「ところでフィリアーナさんは魔法使いだそうですが、前衛職とパーティを組まないんですか? あそこで伸びている人は一応Cランクですし、剣術や体術もこなせる魔法使いは貴重です。ギルドとして仲介させていただくこともできますよ」

「そうなんだ。うーん、でも今は聖騎士見習いの巡礼に同行してるから無理ね」

「え!? まさかとは思いますが、あの、グローリア家の……フガフガ」


 急に大声を出してオリビエさんの家名を出すので、私は受付のお姉さんの口を慌てて押さえた。本人も騒がれたくないだろうし、私が言いふらしたと思われたら嫌だわ。

 そう思いつつも、どうして一発でわかってしまったのか確認しておくことにした。


「なんで聖騎士見習いって情報だけでわかったの? 見習いなんていくらでもいるんじゃない?」

「何を言ってるんですか! 聖騎士になれる人は国に十人といないんですよ? 現時点で聖騎士見習いとして巡礼に出ているとしたら、あの、勇者様と聖女様のお子であるオリビエ様しかいませんよ! ああ、羨ましい……」


 ぼうっとした表情でブツブツと語り始めたお姉さんに引いてしまう私。なるほど、ギースさんが言っていたのは案外的を射ているのね。あんなマリアさんでも、歯止めが効いているほうだと見ていいみたい。


「ええっと、あんまり言いふらさないでね。私はたまたま、女の子の一人旅は危険だろうって言われて同行してもらってるだけだし詳しく知らないけど、あまりチヤホヤされたくなさそうだったわ」

「ええ! もちろん誰にも言いませんとも! ライバルは少ない方がいいですから……」


 なんだか最後におかしなことを聞いた気がするけど気にしないことにしよう。そうだ。ついでに例の件の容疑者の情報でも洗ってみようかしら。


「ねえ、この街に魔道士や魔女はいるの? 居たら少し話を聞いてみたいのだけど」

「魔道士や魔女に届くような方はいませんね。街の有力者の奥様に近い方はいましたけど、高齢で体調を崩されてから姿を見せないそうです」

「そう、元気だったら立ち寄ってみようと思ったけど仕方ないわね。色々と教えてくれて、ありがとう」


 私は受付のお姉さんに挨拶をすると冒険者ギルドを後にした。外に出て空を見上げると、生気が吸い上げられていく様子が目に映る。その風景を見ながら宿屋に向かってゆっくりと歩き出す。


「術者が体調を崩しているなんておかしいわよね。なら有力者の奥様が犯人ということはないと考えていいのかしら」

『うーん、それはどうかな。世の中、フィーが考えているほど綺麗にはできていないよ。というか、フィーが生気の流れを変えるのは少し待った方がいいかもしれない』

「なによそれ。まるでさっきの情報だけで大体の事情を察したような口ぶりね」

『まあね。簡単に言えば、死に損ないの老婆が街の人間の生気で生きながらえているかもしれないって話さ』


 ピタリと立ち止まった私に、ジュディが振り返って座り込み後ろ足で耳をかく。もしその話が当たっていれば、私が生気の流れを変えたら術者のお婆さんが死んでしまうかもしれないということじゃないの。


「それは……帰って相談した方が良さそうね」

『僕としては、そんな青ざめた顔をするくらいなら、こんな街は無視してマーシャルに向けて早々に出発することをお勧めしたいんだけどな』

「それはできないわ。オリビエさんが承知しないでしょうし、私も真実を知りたくなってしまったの」


 お母さんもやろうと思えばできたはずだけど、最後まで他人から生気を吸い取る真似はしなかった。それをしている魔法使いがいるというのなら、どういう心境か聞いてみたい。


 そう、私のせいで寿命を迎えたお母さんに、本当に後悔はなかったのか知りたかったのだ。

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