第2章 魔女が仕掛けた罠
第6話 生気を吸われる街
「おい、そこの大量に人を吊るしている一団! ちょっと止まれ!」
街の門から入ろうとすると門番に止められた。当たり前だけど、十人ほどの盗賊を吊るして運んでいるとかなり目立っていた。
「これはちょうどいい。実はここに来る途中に盗賊に襲われて返り討ちにしたので引き取ってくれるか? 賞金は、そこの嬢ちゃんに渡してやってくれ」
ギースさんが手慣れた雰囲気で説明したところ、門番の人は門の脇の詰め所から書類や似顔絵を出してきて照合しているようだった。
「おお、ローレライの街との間を荒らしていた奴らだな。よし、こいつらはこちらで引き取ろう。そこに降ろしておいてくれ。頭目に金貨十枚の賞金がかけられていたから全部で金貨十九枚だな」
門番の人が指示する場所に盗賊達を降ろして金貨を受け取る私。
「えっと、ギースさん達は貰わなくていいの?」
「俺らは大丈夫だ。てか、オリビエの家はそれなりに裕福だから気にするな」
「なんだか悪い気がするけど、ありがとう」
とはいうものの、この調子で街を移動するたびに盗賊に遭遇できれば遠く離れたマーシャルの街に到着するまでに結構なお金が貯まりそうで楽しみね。
そう考えながら街の中に足を踏み入れた瞬間、悪寒が背筋を通り抜けた。
「……ちょっと、また厄介ごとなの?」
『そうみたいだねぇ。もっとも今度は明らかに人為的なものだね』
ふと隣を見ると、やはりマリアさんも気持ち悪そうにしていた。もっともホルスの村ほど具合が悪そうではない。今すぐ体に異変が起きることはないだろうけど、宿屋に宿泊する気が起きるかというと微妙なところだった。
「またってどういうことだい? ひょっとして、オリビエとマリアの様子がおかしくなったのに関係あるのか?」
「ええ。詳しくはわからないけど、街全体に闇の結界が張られていて中の人から少しずつ生気を奪い取っているわ」
私も魔女見習いだから一応はそういった闇属性の魔術も知ってはいるけど、住民から生気を少しずつ奪い取ってどうするのかわからない。
「また浄化するか」
そう言ってオリビエさんが剣を抜こうとしたので、私はやんわりと引き留める。
「この魔術は魔法陣で人為的に引き起こしているものだから、浄化しても意味はないと思う」
「なに!? これは人間の仕業だって言うのか!」
私がこくりと頷くと、オリビエさんは沈鬱な表情を浮かべた。
「これで住民がすぐに死ぬわけじゃないけど、病気で弱っている人だと危ないかもしれないわ」
「魔術の発生元を特定することはできるのか?」
「少し時間をもらえればできると思うけど、魔術を行使している人も発生元にいるはずだけどどうするの?」
「馬鹿な真似は止めるように説得する」
うーん。オリビエさんは張り切っているようだけど、これだけ大規模な魔術を行使できるとなるとそれなりの実力者だと思うけど大丈夫かしら。
眉を寄せて心配する私に、ギースさんが肩にポンと手を置いて首を振った。
「あー、すまん。こうなったら坊ちゃんは止まらねぇんだわ」
「坊ちゃんはやめろと言っただろ!」
「へいへい。というわけで案内してくれ、フィーちゃん」
「わかったわ。じゃあ、どこか集中できる部屋を借りましょう」
見知らぬ街の風景をゆっくり見てまわろうと思っていたのに困ったものだわ。
◇
「えっ……こ、ここに泊まるんですか?」
吹き抜けのロビーに二階への階段が見える広間はかなり上級の宿屋のように見える。もしかして、一晩金貨一枚とか飛んでしまうんじゃないかしら。そんな心配が顔に出たのか、ギースさんが声をかけてきた。
「そんな真っ青な顔をしなくても大丈夫だ。宿泊費は全部、グローリア家が出してくれるから心配するな」
「そ、そうですか。思っていた以上にすごいんだ」
「そんなことより、早く……って、待て。二部屋借りるのに、なぜマリアと僕が一緒の部屋なんだ。貸せ!」
受付で手続きをしていたマリアさんからペンを奪うと、男女別に割り振りを変えたようだった。その後、受付の女性の案内で部屋まで案内されると、あらためて四人同じ部屋に集合する。
「それで、どれくらいで見つけられそうなんだ?」
「うーん。それを話す前に解決方法から説明すると、大きく分けて二つの方法があると思うの」
一方は地道に生気が吸い寄せられる場所を追跡する方法。微弱な流れだからかなり気を使う必要があるけど、同じ場所に集中するからそのうち見つかるはず。もう一方は、こちらが相手が無視できないことをすることだ。
『まさかと思うけど、喧嘩を売るようなことをするつもりじゃないだろうね』
「そのまさかよ。だって、素直に生気が吸い寄せられる場所を探していたら、その間、私たちからも生気が吸い取られて気持ち悪いじゃない」
「どういうことだ? 使い魔と相談した話を説明してくれないか」
「簡単に言えば、私が別の魔術結界を張って街の人たちに返還するように流れを変えてしまうの。そうすれば、誰が邪魔してるのかと向こうからやってくるって寸法よ!」
そうすれば今すぐに街の状況を改善できるし、もし争いになっても相手の有利な場所で戦うことはないわ。
「そんなことができるってことは、相手よりフィーちゃんの方が影響力が強いってことにならねぇか?」
「やってみないとわからないけど、私はお母さんから魔力を受け継いでいるから単なる力押しではそうそう負けないわ。でも道中で固有空間を発動してしまったから、どちらにせよ明日にして欲しいけど」
「なるほど、わかった。じゃあ、今日は旅の疲れを癒すことにするか」
こうして今日は夕食の時間まで自由時間ということになった。
◇
盗賊さんの賞金で多少の余裕ができた私は、早速、服飾店に向けて外に繰り出していた。行き先を告げた途端にギースさんは別行動を取ると言って、そそくさと部屋に戻っていった。どうやら女性の買い物は長いと思って敬遠されたらしいわ。
ちなみにオリビエさんとマリアさんは、巡礼の都合で街の教会に祈りを捧げに行く必要があるらしく別行動だ。
カラン、コロン♪
「いらっしゃいませ、ミースの店へようこそ! まあ、可愛いお嬢さんね。色々揃えているから遠慮なく見ていってちょうだい」
「ありがとうございます。わあ、可愛い! ジュディ、どう? 私に似合うかしら」
ローレライの街より数倍規模が大きいだけあって、秋物や冬物の服が揃っていた。
『似合うけど、マーシャルまでかなりの距離があるから冬を見越してコートを買っておいた方がいいんじゃないかな』
「じゃあ、このオーバーコートとかいいわね。あ、この厚手のスカートも欲しいわ」
十五歳の成長期だけど、今までお金を節約してきたから服が少し小さくなっていたし、この機会に一気に買い替えてしまおうと次々と新しい服を抱えこんだ。そんな私を上客と見たのか、ミースさんが流行の服を次々と持ってきてくれる。
「ほら、この三角帽子とケープコートを合わせると秋らしい装いができるわよ」
「それも買います! というか、着替えて帰ってもいいですか?」
「もちろんよ、そこの小部屋を使って試してみてね」
三角帽子に肩からケープコートを羽織ると、下地の白いブラウスとコートとコートと同色のスカートのコントラスが映えて若手の魔女らしい姿になった。魔法使い偽装もいいけど、やっぱり魔女らしい装いをするのがいい。姿見の鏡の前でクルリと回転すると、フワリとスカートが浮き上がる様子に嬉しさが込み上げてくる。
その後、一通りサイズを確認したあとで会計をしてもらう。
「えっと、全部で金貨十五枚に銀貨八枚ね」
「ファ!? わ、わかりました……」
私は金貨十六枚を差し出し、ミースさんから銀貨二枚をお釣りとして受け取った。
「たくさんのお買い上げありがとう! また来てね!」
「ええ、また機会があればお願いします」
にっこりと笑顔を向けるミースさんに苦笑いをしながら、服飾店を後にしてガクリと肩を落とす。
「冬になる前に暖かい服が買えてよかったけど、また懐が寒くなってしまったわ……」
『また稼げばいいさ。そういえば冒険者ギルドに毛皮を収めるんじゃなかったのかい』
「あ、忘れていたわ!」
ジュディの助言に冒険者登録と毛皮販売のことを思い出した私は、急いで冒険者ギルドを探し回るのだった。
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