第4話 道中の盗賊退治
ホルスの村で一夜を明かした私は、昨日綺麗に掃除した家を一棟だけマジックバックに収納すると、オリビエさんたちと共に再び北を目指して旅に出た。秋の訪れに合わせて赤や黄色に染まった紅葉樹が辺りを彩っている。
「それにしても、フィーちゃんのその鞄は便利だなぁ。まさか家を丸ごと収納できるなんて。売り物にしたらいくらの値がつくかわからねぇぞ」
「これは特級魔道具だから魔女のライセンスがないと売れないの」
出し入れできるのは持ち主限定の悠久の魔女サーリアのみが使えたとされる時空魔法の産物。今では私も作れるけど理論は難解を極める。別の世界からやって来たというお母さんの魔法は、この世界の常識からは少し逸脱している場合があるのよ。
「それにしても魔女なのに魔法都市マーシャルから端と端ほど離れた場所に住んでるなんて、フィーちゃんのお母さんは変わっているのね。普通、魔女協会の近くで研究するものじゃないの?」
確かに、大抵の魔女は魔女協会があるマーシャルに住んでいる。だから魔法都市とまで言われるほど魔法使いが集まっているのだけど、それにはもちろん理由があった。
「魔法都市に住んでいると弟子になりたい人がたくさんやってきて育児の邪魔だから、一番遠い街に居を構えたって聞いたことがあるわ」
「ああ、それはあるな。王都にいた頃は、俺も父さんや母さんに剣や法術を教わったのは数えるほどしかない」
オリビエさんの話によると、騎士団の練兵や教会での説法でいつも忙しくしていたという。勇者や聖女といっても、ままならないものなのね。
「その代わり、俺やマリアが付きっきりで鍛えてやったじゃないか」
「そうですよぉ。後は夜の手解きをすれば素敵な聖騎士のできあがりですよ?」
「そんな手解きはいらない!」
でも、その代わり周りにオリビエさんの世話を親身になってやってくれる人もいるし、必ずしも親に育てられなくても人は育つのかもしれないわ。
『なんだい、そんな寂しそうな顔をして。フィーには僕がいるじゃないか』
「ありがとう。あら?」
前方の街道の岩陰に十人くらいの集団が隠れている気配を感じた。こんなところで道の舗装でもしているのかしら。
立ち止まった私にギースさんが不審に思ったのか声をかけてきた。
「どうしたんだ、フィーちゃん」
「いえ。あそこの岩陰で人が十人ほどいるようなので、何か工事でもしているのかなと」
私の言葉に岩場の方を向いたギースさんは頭を掻いて答えた。
「よくこの位置から気がついたなぁ、ありゃあ十中八九盗賊だろう」
「え!? あの、お金を沢山くれるっていう?」
「いや……まあ、そうなるのかな?」
こんなところで盗賊さんに出会うなんてラッキーだわ。これで路銀が稼げるかと思うとトキメキで胸がドキドキしてきそう。
「オリビエ、マリア。少し先にある岩場の影に盗賊が十人ほど潜んでるから気をつけろよ」
「そんな指さしたら駄目じゃない。ほら、向こうも気がついて隠れるのをやめちゃったわ」
「なに、どうせ結果は同じだろ? おっと、こっちに走り寄ってきてご苦労なこった」
気が付かれたことを知った盗賊さんは、私たちを逃すまいと思ったのか一斉に姿を現して走り寄ってきた。
「上玉の女が二人もいてラッキーだぜ。野郎ども! 男は殺していいが女はなるべく傷をつけるなよ、売値が下がる」
「わかってるって! おう、そこの姉ちゃんに嬢ちゃん。痛い目に遭いたくなければ、大人しく男どもが殺されるところを見てるんだなぁ!」
「ふひひ、そいつらの代わりに俺らがタップリと可愛がってやるから安心しろ!」
下卑た笑いを浮かべる男達に満面の笑みを浮かべた。
「うわぁ! 本当にこんな人達がいるなんて凄いわ! 小さな頃にお母さんに読んでもらった物語でしか聞いたことないから楽しみよ!」
私は喜びの表情を浮かべて両手を空に掲げて万歳のポーズをとった。
「おいおい。マリアはともかくフィーみたいな年頃の女の子が言うセリフじゃないだろ。少しは緊張感を持ってくれ」
そうオリビエさんが油断なく構えながら呆れた声で注意を促してきたが、その間に彼らの上空に巨大な水球が出来上がっていた。
「ふっふっふ、お母さん直伝! なんちゃって降参ポーズからのウォーター・ボール!」
私は掲げた両手を振り下ろして、無詠唱で生成した水を彼らに浴びせかけた。
「グワッ! なんだ……水?」
「……からのぉ、ライトニング・ボルト!」
ピシャーン!
「「「ギャァアアア!」」」
加減した雷撃が水を滴らせた盗賊さんたちに伝わり一斉に倒れ伏した。ピクピクと痙攣しているが、一応は生きているようだった
「はい、おしまい! あとは役人に突き出せばお金を貰えるんでしょう?」
「そうだな。賞金が掛けられていなければ、一人当たり金貨一枚ってところだ」
「嘘でしょ! そんなに貰えるの!?」
私は急いで盗賊さん達に駆け寄ると、マジックバックから縄を取り出して後ろ手に縛って芋蔓式に繋げた。それから杖に縛り付けて魔力で宙に浮かせて運搬態勢をとる。
『あーあ、運が悪い盗賊だねぇ。フィーに構わなければ普通にやっていけただろうに』
「これで金貨十枚なんて、真面目に働く気がなくなってしまいそうだわ」
「いやあ、フィーちゃんがいてくれて楽できて助かったぜ。おっと、一応は武装解除しておくか」
ギースさんが安全の為に盗賊達が隠し持っているナイフの類を回収し始めたので、私も地面に落ちた彼らの曲刀を拾ってマジックバックに収納していく。
そんな作業をしているうちに、ふと気になったことが口を突いてでた。
「物語だとアジトとかに囚われの貴人がいたと思うんだけど、一人起こして聞いた方がいいかしら」
「そういうのは、お姉さんに任せて!」
マリアさんが頭目と思しき男の額に自分の額を合わせると、何やら法術を発動させた。
「告解」
その後、マリアさんが頭目から離れて首を振る。
「駄目ね。普段はこの先にあるライラの街に住んでいて、既に殺害したか奴隷商に売り払われたかどちらかよ。後は役人に頑張ってもらうしかないわ」
「そうなんだ……なんだか手加減したのが申し訳なくなってくるわ」
私は殺された人達の家族、特に子供達の行く末を思って表情を曇らせた。
「フィーがそんな顔をする必要はない。どの道、こいつらは死ぬまで犯罪奴隷として鉱山で重労働を課せられるだろう」
「そうだぞ。それに役人側としても、売り払われた被害者たちと犯罪者を交換できるから、出来れば生かしておいた方が都合はいいんだ。盗賊たちに売られたからと言って、スムーズに奴隷から解放されるとは限らないんだぜ」
なるほど、中々難しいのね。まあ、後は役人さんに頑張ってもらうしかないでしょう。
「わかったわ。じゃあ、ライラの街に突き出しに行きましょう」
杖を浮かせてそのまま移動を始めた私に、マリアさんが驚いた顔をする。
「私が乗っても気が付かないのはおかしいと思っていたけど、フィーちゃん十人を運んでも平然としているのね。大丈夫なの?」
「いえいえ。さすがに十人を運ぶと少しは疲れるわ。でも七百キロ前後なら良い魔力鍛錬になるし問題ないわ」
そうしてしばらく歩いていると、隣を歩くギースさんが感心した様子で声をかけてきた。
「いやぁ、フィーちゃんは今すぐにでも王都の魔術師団でやっていけるな。給金も保障されるし、街で開業するより裕福に暮らせると思うぜ? なんなら知り合いの魔術師に紹介するぜ?」
「ありがとう。でも、私はお母さんみたいな立派な魔女を目指しているの。まずは魔女になってから、後のことを考えるわ。どれくらいかかるかわからないけど……」
「そういえば魔女ってどんなことをすればなれるんだ? 聖騎士は実力以外にも、こうして巡礼も必要だから時間がかかるんだが魔女もそうなのか?」
オリビエさんの言葉に、私は子供の頃にお母さんから聞いた魔女試験の条件を思い浮かべた。
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