第5話トイレ

 小学生の優斗君はおしっこをがまんしている。

「なぜおしっこは出るのだろうか。神様はなぜこんな苦しみを僕に与えたのか」

 2年の授業が終わり家への帰り道。そんな事をずっと考えていた。

 草むらですることは簡単だ。しかしそれで果たしてこの先の人生を考えたときそれでよいのだろうか。

 トラックがその時路駐して、運転席から降りてきたおじさんが草むらに立ちしょんをした。

 並んでするべきか。いやまだ我慢だ。

「おい、したいんならすればよいだろ。ここら辺にはトイレはないぜ」

 悪魔の誘惑だ。優斗は思った。

 いや、むしろ天使の誘惑なのかもしれない。どちらが正しいのかは分からない。我慢して膀胱炎になる方がよくないのだろう。将来のことを思うのならば。犬が通りがかった。野良である。犬も草むらにトイレをした。

 いや、なんて無邪気な悪気のない顔をしているんだ。もしかして立ちしょんはあくではない? いや法律的にはどうなのだろうか。

 法に詳しくない優斗は法と現在のこの状況とを天秤にかけた。

 肉体が二つあったらな。半分の尿意で済むのに。とか思った。

 別のトラックが走り抜けていった。その時、まどからペットボトルが投げられた。

「お茶か」と優斗はつぶやいた。

「いや、あれは尿だよ」

 たちしょんトラック野郎が言った。

「尿? なんて悪人なんだ」

 優斗は思った。立しょんであれば自然に分解される。しかしペットボトルの中の尿であれば自然に分解されない。むしろ清掃者が中身を抜かなくてはならない。その時の事を考えたら優斗は胸糞が悪くなった。しかし、ペットボトルの中に入れるというアイデアは今の優斗には最善だった。

「おじさん、たちしょんは黙っておくからペットボトルを一つくれ」

 優斗が言うと、おじさんは、がはは、と笑ってトラックから空のペットボトルをくれた。

 優斗はそこに自分のおしっこを入れた。そしてキャップを閉めると鞄にいれて家に持って帰った。

 そしてトイレに中身を流し、何回かゆすいで、トイレに再び流し、ペットボトルはリサイクルコーナーに持って行った。

 トイレを我慢した事が優斗にとって何日分もの良いか悪いかはともかく経験になって、多分大人になっても忘れないんだろうなって満月を見て優斗は思った。

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