第11話 友情の絆は、

 その後、この旅館が何事も無かったようには行かなかったと言う事は言うまでもないだろう。

 だが、少女達の依頼クエストはこれにて終了となったので、その話しは余談である。




 帰りのセブンティーンの車内は、ルミネが助手席に座り、フィオがルミネの膝の上に乗って寝息を立てており、後部座席にはコルネールが座っていた。


 「コルネール」とは旅館で襲って来た支配級魔族種アークデーモンに対して、少女が付けた名前である。

 少女は長ったらしい支配級魔族種アークデーモンの名前を覚えていられず、「容姿が変わったのだから、名前も変えなさい!」と一方的かつ横暴に改名させたのだ。


 ちなみにコルネールの容姿はルミネに任せて魔力製素体ホムンクルスを造ってもらった結果、ルミネの趣味(?)とも言える姿になっていた。



 蒼い長髪にみどりの瞳。体型はスラッとしているが筋肉質で背は高く、顔立ちは中性的と言えば中性的だ。ハロルドとは対象的な姿と言えるだろう。

 そして、その姿を見た少女は「こーゆーのが、タイプなんだ?」とルミネの事を揶揄からかっていた。対するルミネは少しだけむくれていたが、そこからバトルが始まる事は無かった。



 コルネールも上位魔族種エルダーデーモン同様に使い魔ファミリアとしてカード化する事も出来たのだが、その姿がヒトガタをとっている以上、誰かに見られたら問題になり兼ねないのは事実だった。だからこそ少女は、ルミネすら欺く気配断絶能力を活かして密偵として使う事を選択した。


 拠ってマテリアル体をベースとするよりは、より隠密性能を上げる為に、アストラル体をベースとするように仕様が変更されていった。

 「その方が食費も掛からないしねッ」少女はその事についてそう呟いていたが、それは余談である。




 セブンティーンは重低音を掻き鳴らしながら屋敷の敷地へと入って行った。

 一方で屋敷の中にいたレミは、超絶聴覚ノイズキャンセラーでいち早く気付き、その事を皆に知らせたので屋敷の執事とメイドの三人は玄関先で到着を待っていた……。



「おかえりなさいませ、お嬢様」 / 「お帰りなさいませ、マスター」 / 「お帰りなさい、お嬢様ー」


 いつもと変わらない出迎えがもたらされ、少女に続いてルミネとフィオ、最後にコルネールがセブンティーンから降りて行く。

 爺はコルネールの姿を見た時に眉尻をピクッと上げていた。少女は「二度あることは三度あるかもしれない」と思っていた事もあり、「コイツはアタシの使い魔ファミリアだから気にしないで」と早めに牽制した事から、事無きを得たのだった。


 ちなみに余談ながら少女は、「アタシの大事なサラとレミを誘惑したら承知しないからねッ」と予めコルネールに釘を刺しており、二人が魅了チャームの餌食になる事は無かった。




「爺、帰って来て早々悪いんだけど、これからマムの所に報告しに行って、そのままルミネを送り届けるから、その前にセブンティーンに乗ってるアタシの荷物を引き上げておいて貰えるかしら?」


「畏まりました、お嬢様」


 三人は屋敷に帰って来てから広間へと行き、束の間の休息を取っていた。拠って三人の前には紅茶が出されている。

 だが、これと言って特に何かしらの話しや相談がある訳では無い。ただ、一息付きたかっただけだ。

 だから少女は爺にこれからの事と荷物の件を伝えると、爺は粛々と作業に移って行った。




「それじゃあ、ルミネ、コルネール、行きましょッ!フィオはどうする?来る?」


「フィオはお留守番してる~。ふわあぁぁぁ」


 欠伸あくびをして目を擦っているフィオは広間のソファで丸くなっていた。連日はしゃいでいたから疲れているのかもしれない。

 こうして三人は再びセブンティーンに乗り組むと、低いエグゾーストノートを奏でながら屋敷を後にして行った。




「にゃにゃ?今日はフィオはいにゃいの?」


「えぇ、屋敷でお留守番してるって言ってたわ」


 ここは公安の受け付け。そこの自称看板娘のミトラは少しだけ残念そうな顔をしていた。



「あれ?そちらの方は誰にゃん?」


「あッ?!」


 ミトラは少女とルミネの後ろに立つ、長身で中性的な男に目を奪われてしまった様子だった。

 そして、そんなミトラの目はハートマークになっていた。



べしッ


「マスター……一体何を?!」


「至る所で魅了チャームを掛けんなッ」


「なんとッ?!それは厄介ですね……意識して魅了チャームを掛けてるつもりは無いんですが、この素体との相性が良いせいですかね?今後は意識して魅了チャームを掛けないように善処致します……はぁ……」


 コルネールは不服そうな面持ちで呟いていた。そして、目がハートマークになっているミトラは、コルネールに近寄りたがっている様子だったが、これ以上厄介なコトになっても困るだけなので、ミトラには少しだけ眠ってもらう事にしたのだった。




 「こんこん」と、流石に決して軽快とは言えない音を響かせノック音が鳴っていく。

 そんなノックの音から響いて来ている色は「緊張」であり、その音を響かせた者を想像しつつも、マムは目を通していた書類から目を離す事無く「入っておいで」といつも通りの声高なしゃがれ声を掛けていった。



「や、やぁ……マム。依頼クエスト終わった……わよ?」


「ッ?!はあぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 少女はマムの部屋に入って来るなり、マムをさせていった。



「また、今回も随分と変なのを連れて来たねぇ」


「えへへへへ。やっぱり分かっちゃうかぁ……」


「また戸籍を作れとか、ハンター試験を受けさせろとか言わないでおくれよ?あたしゃ、厄介事はコリゴリだからね」


「だ、大丈夫よ、コイツはコルネール。コルネールはアタシの使い魔ファミリアだから。使い魔ファミリアに戸籍は要らないわ。拠って……ハンターにもなれないわ」


 少女が紡いだのは暴論と言える。まぁ、当然の事ではあるのだが、それはマムからの先制攻撃を受け流す結果となっていた。



「で?それじゃあ、今日はその変なのを見せびらかす以外に何をしに来たってのさ?」


 マムは口角を上げながら、不敵な笑みを浮かべて三人を見据えていた。




 少女は今回の依頼クエストに於いて分かった事を、端的たんてきにマムへと語っていった。そして、コルネールの口からもコルネール自身が知っている事を紡いでいく。当のコルネールはどこか緊張しているような面持ちだったのが、多少なりとも少女の琴線に触れていた。



「なるほどねぇ、魔獣化劣位魔族種レッサーデーモンが各地で蔓延まんえんして来ている背景には、そんな事があったなんてねぇ。それに合成魔獣キメラ……か。厄介だねぇ……。過去の遺物ロスト・レガシーたるそんな技術はとっくに失われたと思ってたんだけどねぇ」


過去の遺物ロスト・レガシー?またですわ?一体それはなんなんですの?」


 マムの話し振りはまるでとでも言わんばかりの口調にも見えた。だがそこをツッコむ少女ではないし、そこをツッコめば大抵良くない事が起きるのは分かっていた。

 一方のルミネは疑問に思った事を口走っていたが、そこには誰も触れてくれなかったと言える。




 合成魔獣キメラとは、複数の生物を繋ぎ合わせて造る人工生命体という概念がある。拠って人工生命体と言う概念を持つ魔力製素体ホムンクルス魔術生物ゴーレムとは全く性質が異なる。


 魔力製素体ホムンクルス魔術生物ゴーレムは術者の魔力を原料に身体が生成されていくのに対して、合成魔獣キメラは元からある生物の身体を元に生成されていく。拠って、それは本来であれば「不可能な技術」としか言いようがない。


 動物の細胞には免疫機構があり、その機構が自分以外の他者の細胞を排除しようとするからである。その為、同種族他種族含め全ての細胞の接合せつごうは成功せず、無理に繋ぎ合わせても血が通わず、腐って落ちるのが関の山と言うのがオチだ。


 ——だが、その合成魔獣キメラの技術を成功させた者が過去には存在した……と言うのもまた事実である。

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