第7話 私は少しも恐れるところがない。私はこの世界に、

「「魔法」の理論を構築して使ったら、「妖精界」を滅ぼしてしまいました……てへッ」


 少女は復活した後でルミネと共に部屋へと戻ったワケだが、結局の所、ゴタゴタがあっても忘れてくれていなかったルミネに拠って問い詰められる事になり、とうとう口を割ったのである。


 少女はあまり気乗りはしなかったのだが、ルミネに対して一切語っていなかった「神界」での出来事を簡潔に語る事にしたのだった。

 まぁ、少女から一切語られなくてもルミネとしては、「神界」に少女が行った事を知っていたし、フィオの存在やより強大になった少女のオドなどから、「神界」で何かがあった事は察していたと言うのは余談だ。



 少女の語りが終わるとルミネは、「驚き」とも「呆れ」ともつかない表情で少女の事を見ていた。



「今……「魔法」って言いましたわよね?」


「う……うん」


 ルミネの瞳は怒りとも羨望せんぼうとも言えない色を宿しており、少女はただただビクビクとしている様子だった。



「本当なんですの?」


「う……うん」


 ルミネは途中から顎に手を付け、視線を下に落とし考え事をするように少女に問い掛けていた。

 少女としてはルミネ魔術の申し子に対して今まで黙っていた申し訳無さやら、自分の力で世界を1つ消失させてしまった事などから覇気が無い様子だと言えるだろう。

 しかしそれ以上に現在の少女を襲っている大問題がある事を忘れてはいけない。


 

「まぁ、でも、それなら納得がいきますわ。「妖精界」を滅ぼす程の余波が「魔界」に影響を及ぼしたのでしたら、世界間の関係性が変わって来ていても可怪しくありませんものね」


「うん……」


 ルミネは先程から続く少女の覇気の無い生返事が気になっていた。だから考え事を一旦止めて少女の方を見ると、少女は舟をいでいたのだった。



「はぁ、全く……。アルレさまの事だからいずれはその域に達してしまうと思っておりましたけど、わたくしの考えよりだいぶ早かったですわ……それにしても「魔法」を使える程の術者とは思えない姿ですわね」


 ルミネは呆れながらも「くすッ」と微笑わらうと少女を抱きかかえ、使われる事を今か今かと待ち望んでいるような、既に敷かれていた布団の上に横たわらせ、少女の身体を包み込むように布団を掛けていった。


 「すーすー」と、穏やかで可愛らしい寝息を立てている少女の寝顔を見ながらルミネは、再び「くすッ」と微笑うと、自分も布団の中にもぐり込み夢の世界へと旅立って行くのだった。




 旅館の中居が朝食を運んで来た時、二人はまだ熟睡していた。だが、フィオはお腹が空いた結果、目覚めており運ばれて来た朝食をせっせと頬張っていく。


 中居はフィオが人語を話す事に最初驚いてはいたが、その愛らしい姿のとりこになってしまったらしく、フィオが朝食を食べ終わるまでその姿を眺めていた。




 少女達が目覚めたのは、昼になる頃だった。昼食を持って来た中居の声によって起こされたのである。



「昼食をお持ち致しました」


「あれ?一人分、多くない?」


「そちらの愛くるしい方へのサービスで御座います」


「へっ?」


 少女はその言の葉の真意を知らない事から「きょとん」としていたが、「うん……まぁ、いっか」と思い直すと、ルミネと二人で本日初となる食事に舌鼓したつづみを打っていく事にした。




 昼食の後で少女は外に出て、昨夜の出来事をマムに通話で伝える事にした。

 外は虫の大合唱やら川のせせらぎの音やらで、少女にとって都合の悪いノイズお小言はカットされている様子であって、そんな会話の中で少女はもう一泊する事を決めた。

 少女に押し切られたマムは、渋々と許可を出す意外の選択肢を選べなかった感じである。



がららッ

 ぴしゃッ

「ルミネ、もう一泊するけどいいわよねッ!」


「えぇ、モチロン良いですわ。でも……替えの下着がありませんわよ?」


「うっ……そ、それもそうね……。ま、まぁ時間があったら買いに行きましょッ」


「所で、もう一泊する意味は何ですの?昨夜の件は片が付いたのではなくて?」


「ふっふっふっ、甘いわねルミネ……調査がまだ残ってるわッ」


「調査?」


 少女は先ず、旅館の女将おかみを捕まえるとルミネが回収していた「装置」を見せた。だが……女将の反応は、サッパリだった。

 そして、少女は次々に旅館の人間に対して聞き込みをして行くが、結局の所、旅館の関係者は誰一人として、「装置」の事を知らない様子だったと言える。



「結局、誰も「装置」の事を知らなかったわね」


「そのようですわね。それじゃあ、これで調査は終わりですの?」


「そうね……あと1つやる事があるけど、それが終わったら後は……のんびりしましょッ!」


 今の季節は夏。山間部とは言え、暑さに変わりはなく「自分に対して殺意を持っているんじゃないか?」と錯覚に陥る程の厳しい陽射しが照り付ける中……二人は外にいた。

 要するに二人は汗だくになっていた。拠って汗にまみれた身体は温泉を欲していたのだった。



「あぁん、あぁーッ!生き返るわねーッ」


「えぇ、そうですわね。気持ち良いですわ。これなら、毎日でも温泉に浸かりたくなって参りますわ。公安の宿舎に温泉って引けないか相談してみるのもいいかもしれませんわね。それに「魔界」にも温泉ってありますかしら?」


 少女もルミネも気持ち良さそうな声を上げており、空を掴もうとしているような素振りで伸びをしていた。まぁルミネがボヤいているのは無理難題と言うものなので、少女は深くツッコまないようにしていたが、「魔界」に温泉が沸くのかは興味があったと言える。


 フィオは昨日と同じようにお湯に浸かっては上がり、身体を「ぶるぶるッ」と震えさせお湯を撒き散らし、再び湯に浸かり……といった行動を繰り返して遊んでいる。一応、その遊びは二人にお湯が掛からない場所でやっているので、フィオなりに配慮はしているらしい。



「でも、結局のところ……犯人はおりませんでしたわね?」


「まぁ、あの装置を犯人が悪意を持って置いたなら、聞いた所で名乗りはしないわ。だから、果報は寝て待てって事よ」


「それもそうですわね。でも、本当に寝てしまったら気付けませんわよ?」


 少女は浴槽に仰向けに寝転がり満天の煌めく星に視界を占拠されている。かたやルミネは浴槽にうつ伏せるように露天風呂のへりに腕を掛け、フィオの遊んでいる様子を見ていた。




「あッ!!」


 突如として少女の声が響いていく。

 二人とフィオは湯船から上がり、夜風に惜しげも無く肢体をさらし階段を登って脱衣所まで来たのだが、脱衣所まで来たところで少女は気付いてしまったのだった。



「どうしたんですの?急に大声なんて出して?」


「下着、買い忘れてた……。どうしよう……?昨日のを履くか、汗まみれになった、さっきまで履いてたのを履くかしかないよぉ。でも、昨日のはここに持って来て無いから、部屋までノーパンで行くのなんて……そんなの誰かに見られたら、アタシ……死んじゃうッ!」


「それくらいで死なれても困りますけど……まぁ確かにわたくしの下着もありませんのよね。すっかり失念しておりましたわ」

「ふぅ……。仕方ありませんわね。今日、身に着けていたのを出して頂けます?」


「じ、ジロジロあんまり見ないでよね?いくらルミネでも恥ずかしいモノは恥ずかしいんだからッ」


 少女は顔を赤くしながら、一度視線を下に落とすと上目遣いでルミネに自身の下着を手渡す事にした。



「それじゃ、これを持って下の露天風呂に戻るとするのですわ」


「下?えっ?どういう事?まさか、温泉で洗う気?」


「フィオはここで待ってるね。二人とも行ってらっしゃ〜い」


 少女としてはよく分からない事だった為に多少取り乱した様子だが、既に自分の下着がルミネの手の中にある以上、ルミネの後を付いて行く選択肢しか選べないのは至極当然の事だった。



「どうする気なの?アタシ達の下着を……」


「こうするのですわッ!浄純真水アクアソナチネ


しゅるるんッ


「ほえぇぇ。こんな魔術もあったんだ……」


 ルミネが使ったのは人間界ではお目に掛かる事がない魔術である。要するに科学技術や魔導工学の発展に因って、「わざわざ魔術でやらなくてもいい分野の魔術」とでも表現するのが最適な魔術と言えるだろう。

 ただ、「魔界」に於いてはそれらの技術革新が無い為に一般的と言えば一般的な魔術なのである。それらは「生活魔術」と呼ばれるモノで魔族デモニア達が魔術の体現化マギア・ファンタズマによって編み出しているとも言える代物なのだ。


 よって、ルミネが使ったその生活魔術によって、二人の下着は宙に漂いながら洗われていた。でもま、第三者の前でそんな事をした日には、少女は「恥ずか死」する思いなのは間違いが無いだろう。



「さて、仕上げにこうですわッ!」

風柔微翼ウィンディアノート


 水の生活魔術に拠って洗われてビチョビチョになっている二人の下着達は、今度は風の生活魔術をその布一面に浴びて、その内に宿している水分が飛ばされて行く。

 そして、ふわりふわりと舞いながら、少女の掌の上に自分の洗いたての下着が降り立ったのだった

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