第6話 その人が与えたもので測られる。-アルベルト・アインシュタイン‐

 少女は仁王立ちで強調されたルミネの胸を鷲掴わしづかみ、揉みしだきながら大きさを測っていた。

 ルミネの豊満な胸ワガママボディは掌に吸い付くような柔肌でありながら、結構な弾力とかなりの重量感がある。そんなたわわな胸を少女は、これでもかと言う程に揉みしだいて行く。


 まぁ飽くまでも少女としては、「完徹オールのテンションがそうさせている」と言うていで……ではある。

 その一方で、ルミネは少女からのとんだ逆襲によって身体が気持ちよさから来る痙攣で、足がカクカクしてピクピクしている様子だった。



「ダメ……ダメ……そんな、あぁッ。あはぁ……ん」


「あれ?ルミネ?なんだ……アタシはてっきり……」


 ルミネはなまめかしい声を上げて、へなへなと膝から崩れ落ち、「へたッ」とお尻を床に付けていた。更には下を向きながら力無く深呼吸をして、少女によって揉みしだかれた胸を上下させていた。そんな上気して火照った肢体は未だに少し痙攣している様子だ。



「はぁ……はぁ……はぁ……。酷いですわアルレさま……。これじゃもう、わたくしお嫁に行けませんわ」


「あはははは。それにしてもルミネって感度も凄いのね」


「もうッ!アルレさまなんて、知りませんわッ」



 ルミネは顔を紅潮こうちょうさせ、決して嫌ではなさそうな表情で言の葉を紡ぐと、いそいそと湯船の中に入り口元まで浸かって行った。



ぶくぶくぶくぶく


「ねぇ、ルミネ?」


ぶくぶくぶくぶく


「ねぇ、ルミネ……?」


ぶくぶくぶくぶく


「ごめんって、さっきのは……そう!あまりにもルミネの身体が成長してるモンだから、イタズラしてみよっかなって思っただけなの!ただの好奇心と言うか、遊び心だっただけで、悪気は無かったんだってばッ!」


ぶくぶくぶくぶく


「怒ってる?」


ぶくぶくぶくぶく

「ぷいッ」


 少女の紡いだ言の葉は、取って付けたような言い訳だった。言葉の表面ではルミネに謝っているが、ルミネはその裏面に気付いているからか顔を横に向け、可愛らしく



「だって……そうは言っても、イタズラしようって思ったってコトは、悪気があったと感じるのですわ?」


「うっ……」


 それは正論だった。問答無用で一刀両断の正論はルミネに勝利を齎したと言う事は言うまでもないだろう。



「それで、わたくしに聞きたかった本当の内容はなんですの?流石に先程のが本題って事でしたらもっと怒りますわよ?」


「うん……ねぇルミネ……。さっきの「陣」って、可怪おかしく無かった?」


「えっ?!」


 少女から出て来た突然の言の葉にルミネは少しだけ「びくッ」と身体を震わせてしまっていた。

 そして少女は、ルミネのその「震え」を見逃してはいなかった。要するに「何かを知っている」と直感が告げていた。

 さっき「何かあったの?」とルミネに聞いた時には違和感を特段感じなかった事から、そのまま話し引き——即ち話しを敢えて逸らしたが今回はそのまま押す事にしたのである。



「何かを知っているのね?それって凄く言い難い事なのかしら?」


「恐らく、アレはわたくしが「魔界」にいる時に創った物を模倣して、誰かが造作していると考えられますわ」


 ルミネの口振りは重く、声は非常に小さい。その事からルミネの中にどこか後ろめたい事があるのかもしれないが、少女の耳はその声をしっかりと聞き届けていた。



「えっ?それって、一体?」


「アレは、わたくしが「魔界」で発明した物に、凄く似ているのですわ。さっき、一つだけ回収致しましたの。だから、帰ったら解析しますけど、恐らく……」


 少女は顔色があからさまに悪くなっているルミネの事をおもんぱかって、決して強くは言えなかったが、聞きたい事は山積みの様子だ。

 だが山積みにしたモノを切り崩して、口から出さずに頭の中で整理した結果、1つ思い出した事があった。


 あれは確か、今から二年半程前の事だろうか?ルミネが「家出をして来た」と少女に言った時……桜が咲いていたあの川原で出会った後……少女の屋敷で話しをした時……ルミネはさらっと言っていた……ような気がしてやまなかったのだ。



「それじゃあ、いや、でも……そんな事」


 少女は自身の思考回路を総動員させ、自問自答をフル展開していた。その中にアテナの加護ブレスも加わっているが、ここでは余談である。



「どうしたんですの?」


 ルミネは自問自答を繰り返し独り言をブツブツと言っている少女へと声を掛けるが、少女の耳にはルミネの声は入って行かない様子だ。




「ねぇ、ルミネ……ルミネが発明した装置って、誰でも簡単に作れる物なの?」


 少女は一通り自問自答を繰り返した後でルミネの目を見て、ルミネの肩を掴んで前後に揺さぶりながら言の葉を紡いでいく。

 そんな少女の動きに合わせてお湯がジワジワと波紋を広げていった。



「わたくしが構築した理論と同一のモノを一から組める人がいるかは分かりませんけど、組んである理論を模倣するだけなら、魔術の素養がある程度あれば誰にでも出来るとは思いますわ」


 ルミネはそう返していた。要するに、自分と同じ事を考えて、同じモノを創った可能性を否定していたとも言い換えられるだろう。



「実はね、ルミネ……人間界と魔界の関係性って密接になりつつあるの」


「えっ!?それって……それじゃあ、人間界から魔界へ、魔界から人間界に行き来する事が……?」


「前みたいに、そこまで膨大なオドやマナも現状では必要にならないわ」


 少女が何故その事を知っているのか、ルミネには皆目見当がついていないが、少女が嘘を言っているとは思えず、その衝撃の事実を真正面から受け取ったのだった。



「あの装置が出回っていて、悪意ある者が魔獣化劣位魔族種レッサーデーモンの召喚に使っている可能性は否めないわ……ね。以前ならあの装置一つで、「魔界」から直接召喚する事は叶わなかったでしょうけど、密接になりつつある今なら、恐らく可能……ね」


「でも、何でですの?今更になって、人間界と魔界の関係性が変わったとでも言うんですの?」


 ルミネの問いに少女は空笑からわらいをしていた。その上で「そ、そろそろ長湯しちゃったから、上がろっか?」と応えていた。

 その目は二人が浸かっている湯船を悠々自適に傍若無人に泳いでいたとも言えるだろう。



「怪しい……怪し過ぎますわッ!何か知ってるなら、仰って欲しいのですわッ!」


ざばッ


「さぁ、アルレさま!白状して下さいまし!」


 ルミネは音を立て立ち上がると、あられも無い姿のまま、少女へと詰め寄って行く。

 その行動にルミネの、たわわに実った赤く上気した果実は威勢を張るように揺れていた。



 一方で少女は本当に逆上のぼせそうだった。と言うか逆上のぼせていた。

 よってルミネに詰め寄られ、話しの流れ的に長くなりそうな事と、自分にとって分が悪い内容だった事から、湯船から逃げ出そうとした矢先に逆上のぼせた少女の頭は、平衡へいこう感覚を失調させていた。

 こうして少女はそのまま転倒し、お湯の中へと沈んで行ったのである。



「逃しませんわッ!お湯の中に隠れて逃げても、わたくしからは逃げられませんわよッ」


 ルミネはお湯の中に沈んだ少女が逆上のぼせた結果だとは考えていなかった。

 そこで、お湯の中に逃げたと考えた少女を捕まえて、くすぐろうとしたのだが、沈んだ少女がそのまま「ぷかり」と浮かんで来た事でルミネの顔は真っ青になり、慌てて浴槽から少女を救助したのである。




「あー、危うく死ぬトコだったぁー」


「はぁ……ルミナンテ、一生の不覚ですわ……」


 少女は今、下着姿のまま脱衣所で風を浴びている。

 その横でルミネは情けない表情のまま掌を床に付き、脱力していた。



-・-・-・-・-・-・-



 ルミネは少女を救出すると、露天の床に寝転がした。長湯したせいで少女の体温は高かったが、呼吸は安定していた事から、ルミネは急いで水の魔術を少女へと浴びせ体温を速やかに奪うと、少女は辛うじて意識を取り戻していった。


 少女としては水の魔術を被った事で目を覚まし、頭がぼーッとしているものの、自分の目の前には今にも泣き崩れそうなルミネがいたので正直焦っていた。



「大丈夫よ、ルミネ……ありがと」


「アルレさま……良かった……」


「本当に……長湯は危険ね」


 少女はかたわらに座り込んでいるルミネの頬を撫でていた。その表情はとても柔らかく、ルミネをこれ以上心配させまいとする優しさに溢れている様子だった。




 ルミネは少女に肩を貸し、少女は多少フラつくものの、そのまま階段を登り脱衣所まで歩いて行く。

 脱衣所に付いた少女は下着を身に着け、浴衣を身に纏おうとした所で、眠気も重なった結果……力尽きた。

 ルミネは力尽きている少女を発見して急いで抱きかかえるように起こすと、脱衣所にあった椅子に座らせ、風の魔術で身体を冷やす事にしたのだった。



「落ち着きまして?」


「えぇ……ルミネ、ありがと」


「アルレさま、飲みます?」


 少女は未だ立ち上がる気力が無かったので、瓶牛乳を受け取ると椅子に座ったまま腰に手を当て、喉を鳴らして一気に「ごきゅごきゅッ」と飲んでいった。

 ルミネはその光景に驚いた顔をしていたが、少女が口の周りに白ヒゲを作ったまま飲み終えると「ぷッ」と微笑わらい出していた。



「何ですの?それ?」


「えっ?何か可笑しかった?これが昔あった「日本」って言う国の文化として伝わっている作法よ?知らないの?」


「知りませんわ。わたくしは「魔界」産まれ「魔界」育ちですもの。それに、アルレさま……口の周りに……ぷっ」


 少女は真面目な顔をして、ルミネに作法を説いたのだが、ルミネはその真面目な少女の白ヒゲを見て、微笑わらいが止まらなくなっていた。そして終いには、「クスクス」と微笑わらっていた可憐な声は、「あはははは」と口を大きく開けて笑うようになっていた。

 そこには貴族令嬢らしさお淑やかさなんて微塵も無く、仲の良い友達とワイガヤで盛り上がり、楽しんでいる様子しかなかった。



「友達ってやっぱりいいモンだなぁ」


 少女はそんな感想を心の中に秘め、口を開けて盛大に笑っているルミネと一緒に笑っていた。

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