第5話  人の価値とは、その人が得たものではなく、

 少女から放たれたガルム達は、起点となっている陣を発見していた。

 そして、その陣の在り処は逐一少女の元へと報告されていく。



「ねぇ、ルミネ、さっきから陣の位置をガルム達が知らせてくれているんだけど……」


「えぇ……」


 少女は言いにくそうに言の葉を紡いでいる。ルミネは何となくだが言いたい事を察していた。



「もう既に20個以上、見付けたみたいなんだけど?どう思う?」


「えっ?!そんな……に?」


 少女から紡がれる言の葉に、ある程度の数を察していたルミネでもこれは流石に驚いていた。

 ルミネとしては、これ程まで多数の魔獣化劣位魔族種レッサーデーモンを呼び寄せているのだから、一個や二個では足りないと思っており、多少の数では驚かないつもりはあった。

 だから驚かない自負じふはあった。


 だが、流石に20個はやり過ぎだとツッコミを入れたかったルミネだったと言える。



「こうなったら、虱潰しらみつぶしに潰して行くしか無いですわね。ここにいる劣位レッサーの総数も減って参りましたし、こうなったらアルレさまの使い魔ファミリアを陣の破壊へと向かわせるしか他に考えが思いつきませんわね」


「まぁ、それが妥当よね?」


「それじゃあアルレさま、お願いしますわ」


「オルムガンドとトロール達はそのまま魔獣化劣位魔族種レッサーデーモンの殲滅に向かって!湧き出て来る悉くを殲滅してッ!」

「ヴァナルガンドはガルムと共に陣の破壊を主とし、戦闘は極力避け、陣の破壊を優先させる事!魔獣化劣位魔族種レッサーデーモンとの戦闘行動はオルムガンドとトロールに全て任せる事としますッ!いいわね、みんなッ」


 少女が紡いだ言の葉に使い魔ファミリア達は従順に且つ迅速に行動していった。

 そして使い魔ファミリア達同様に、少女とルミネもまた手分けをして陣の破壊へと向かって行く事にした。



「これが、陣?」

「こんなモノが陣と呼べる……の?」


ガガガガガガァァァァァァ


 少女がガルムに案内されて見た召喚陣はおよそ「陣」と呼べる代物では無かった。

 それは簡素で得体の知れない装置が設置されているだけだったからだ。ただ……そこから魔獣化劣位魔族種レッサーデーモンが今にも湧き出て来ようとしている。

 要するに湧き出て来ようとしている以上「陣」である事に変わりは無いのだが、初見で「陣」と見破る事はまず不可能だとも思えた。

 取り敢えず状況からしてよくワケが分からな過ぎるのだが、少女はこの「陣」を破壊して回る事にした。




 一方でルミネは驚愕していた。



「こっ……これはッ!?」

「な……なんで、これが、ここに……こんな所にありますの?」


 ルミネは顔に普段見せないような表情を浮かべ、驚きを口から漏らしながらも心中では冷静を保っており、目の前で今まさに魔獣化劣位魔族種レッサーデーモンを湧き出させようとしている装置を停止させると、その装置を一つだけ抱えて持ち、後の物は破壊して回っていった。

 ちなみに、停止させられた事で湧き出ようとしていた魔獣化劣位魔族種レッサーデーモンは塵となって消えた。




 結果として合計数、32個にも及ぶ「陣」が破壊され尽くしたのは空がっすらと明るくなり始める前だった。



 深緑しんりょく山間やまあいが薄っすらと赤紫色に染まり始め、川のせせらぎに負けじと虫達が騒ぎ始めた頃になって漸く、少女とルミネは旅館の部屋へと帰って来る事が出来た。


 そしてこの現状になって、全ての使い魔ファミリア達は役目を終えデバイスの中でカードになって眠っている。

 それまでの怪獣大決戦さながらの光景は、ここに来てやっとの事で鳴りを潜める事に成功した様子だ。しかし怪獣大決戦とは言っても、個体性能の違いが大きい事を踏まえると少女の使い魔ファミリア達に被害は無い。


 そして、その餌食となった魔獣化劣位魔族種レッサーデーモン達はむくろすら残さず、黒い霧とも塵とも言い難いモノになって霧散していったので跡は何も残ってなどいない。




「ふぅ……。汗を掻きましたわね。アルレさま、一緒に露天でも如何いかがです?」


「それ、っごくいいわね!一緒に入りましょ♪」


 おもむろにルミネは少女を誘った。少女は眠気に負けそうだったが、その提案で既に眠気は吹き飛んでいた。だからそれに付き合う事にして、二人は数時間前に大暴れしていた露天風呂へと足を運んで行った。



 脱衣所で浴衣を脱ぎ、一糸纏いっしまとわぬ二人は露天風呂へと続く階段を降りて行く。

 夏とは言え、山間の空気は朝が早いだけあって、ひんやりとしており、その冷たさが戦闘の後で火照ほてった身体には気持ちが良かった。

 更に付け加えるならば、女二人だけの貸し切りになっているとも言える露天風呂の為、恥ずかしさなど微塵も無く気持ち良く素っ裸になり、可憐な裸身を惜しむ事なく開放的に曝け出している。

 そこには少女のコンプレックスも随分と落ち着いているように窺える。テンションが上がっているからかもしれないが、ルミネと自分を見比べて、かなり見劣りする自分のバストサイズに落ち込む事も無く平然としている様子だ。



ざばッ

「ぶるるるるるッ」


「アルレさま、犬じゃないんですから」


「えへへ」


 少女は頭から盛大に湯を被り、先程吹き飛んだにも拘わらず戻り掛けて来ていた眠気を、再び頭を振って吹き飛ばそうとしていたが、ルミネにはその真意が分かるハズもなかった様子だ。

 拠っていくら掛け湯をしても眠気は流れて行ってくれそうに無く、頭の隅で手招きをしていた。



 一方のルミネはその少女の光景を見ながらも、肩から脚に、お腹から胸に、順を追って艶めかしい様子で湯を掛けて行く。

 お転婆にも見える少女とは違い、大人の女性の魅力たっぷりに妖艶な雰囲気を醸し出しながらお湯を滴らせていた。


 そして、一通り湯を掛け終わると青色を増してきた空を見上げ、「ふぅ」と儚げな溜め息を漏らすのだった。



ぴちゃんッ

 ちゃぽんッ


「あッ!ルミネずるい!アタシも」

ざぱぁんッ


「ちょ、アルレさま。お行儀が悪いですわよ」


 静かな音を立て湯に浸かったルミネの白い足が、温泉のじんわりとした温かさを感じていく。

 ひんやりとした空気とは正反対の、多少熱めの湯に足先を浸け、徐々にその麗しい肢体したいを沈めて行ったのだが、その情緒溢れる風情は少女の行動で台無しと言えるだろう。



「あぁぁッ。あーッ、いつ入ってもいいモンねぇ」

「んーーーッ」


「もう、アルレさまったら……」


 少女は湯に浸かりながら伸びをしており、ルミネは多少呆れたような表情を作りながらも、その先にある言葉を漏らす事はしなかった。もしもそんな事を言えば、逆襲されるから……なんて事を考えていたワケではない。



「で、ルミネ、何かあったの?」


「えぇ、ありましたわ」


「そっか。何かあったのかぁ」


「えっ?それだけですの?」


「何か言い難い事なのかなって思ったから、ちょっと、気を和ませようと思って。えへへ。で、何かあったその「何か」は、さっきの事?それとも、他の事?」


「他の事ってなんですの?」


 少女はちょっとだけニヤニヤしながら、ルミネのオッドアイの瞳から整った顔全体へと視界を移し、そのまま首筋から肩へと這わせるような視線を向けていった。

 そして最後には赤く上気した胸に、更にはお湯で揺蕩たゆたって見え辛い下半身の方へと視線をズラして行く。



「ちょっと、視線がヤらしいですわよ?アルレさまにそう言う趣味があるとは思いませんでしたわ」


「いやぁ、久し振りの完徹オールだから、テンションが可怪しいのよねぇ。あはは」


「もう……意味が分かりませんわ。所で「他の事」って、他にも何かありますの?」


「ん?ハロルドの事とか?」


 少女は更にニヤニヤしながら、話題をガールズトークにすり替えようとしている様子だった。そこまで少女の口から出た事で、少女の先程の視線の意味を理解したルミネは、上気した胸以上の色付き方で顔を赤く染め上げていった。



「人間界に来て、アスモデウスさんの目は気にしなくていいんだから、誰にはばかる事無く二人でラブラブ出来るでしょ?あっ!でも、安心して!アスモデウスさんには言わないから。アタシはルミネとハロルドの味方だからね!」


「ちょッ!アルレさま……」


「でもでも、子供は作ったら色々と問題だから、気を付けないとダメなんだから」

つつつーつんつんッ


 少女はエロオヤジのような顔付きで、ルミネを値踏みするような視線でその肢体をめ回しており、更には指先でその柔肌をなぞって突付いていく。

 よって流石のルミネも過度なセクハラ発言と言動に対して笑っていられなくなったのも事実だった。



「ちょッ!何ですの、それ?もう、テンションがどうのこうのの話ではありませんわよ!?一回、頭を冷やす必要がありますわねッ!」


「えっ?!ちょ、ルミ……ネ」


水球烈弾ウォーターボール!」


ばっしゃーーーんッ


 こうしてセクハラ少女に対してルミネの水の魔術が、その少女の頭上で炸裂し、結果的に少女は水浸しの刑になった。そして、熱めのお湯の温度は適温くらいまで下がっていた。



「ゴメンナサイ。ワルフザケガスギマシタ」


「分かれば宜しいのですわ。それに、人の胸を軽々しく触ってはいけませんわ!アルレさまだって、わたくしに触られたいとは思わないでしょう?」


 少女は浴槽から出て風呂場の床の上に正座して謝っていた。そんな少女に対してルミネは胸を張って、少女の前に仁王立ちになっており、豊満な胸ワガママボディを強調してる様子にも見える。



「あれ?ルミネ、また大きくなってない?」


むにゅッ

 もにゅッ


「えっ?ちょっと、アルレさま?わたくしの話しを聞いてまして?いやッ……あぁッ。だ……ダメです……わ」

ぴくッぴく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る