旅立ち・2

七海はふっと目を覚ました。


いつの間に眠ってしまったんだろう……


確か『つばさ』くん「次」と言った──七海は思い出して心がほわりと温かくなった。

「そうだった……次……いつ…………」


そしてまた、闇。



パチリと音を立てて瞼が開く。


まぶたっておとがするんだ!


その発見に驚く。

だが目の前はいつもの闇で、輝や翼が目の前に現れた時のような明るさも、爽やかさも感じられない。

「つばさくん……どこぉ………」

起き上がってみても闇の中では上も下も、前も後ろも、右も左もわからない。

ただの闇。

空虚。

「うわわわわわっ!!遅れたぁ!!」

ボゥンッという破裂音に驚いて目を瞬くと、突然闇はなくなって、白っぽいモヤモヤを纏った翼と輝がいた。

輝は相変わらず小さな妖精姿だけれど、今日は光っていない。

翼は制服と帽子を被っていて、まるで電車とかバスでお仕事する人みたいだった。

だけ。

「ちがう……?うんてんしゅさんみたいだけど……?」

「ヘッへ~。気が付いた?これはガイド服!今日は七海をアテンドするって言っただろう?お兄さんに任せなさい!」

「……じゃあ、いっしょにあそべないの?」

「えっ……い、いやっ……そのっ……」

どうやら今日は『ごっこ遊び』をするために来たわけではなく、『お仕事』なのだと理解した七海がシュンとすると、胸を張っていた翼が慌てて両手を振って否定した。

「ちがっ…仕事だけど…仕事じゃなくって……えぇ~っとぉ……」

グスッと鼻を啜る音を聞いて、翼は突然「よし!」と声を上げた。

「ちょ~っと七海の力を借りちゃうけど……」

「ちから……?」

涙目で顔を上げた七海に向かって、翼はニッと大きく笑みを浮かべる。

「ご機嫌直して~~~~~!」


バゥンッ!!


爆発というよりもアニメの効果音のようなこもった破裂音に驚いて目を瞠る七海に向かって、ぶわっと白い雲のような煙、クルクルと巻かれた紙テープやキラキラと光る星型やハートや四角い紙吹雪、そしておもちゃのような小さなハトが幾羽も空へと飛び出した。

「うわぁ………」

「よっし!今日は遊ぶぞぉ!」

「は?な、何を……か、勝手に……」

突然の職務放棄宣言を聞いた輝が慌てて翼の周りをグルグル回り出したが、いかんせんピンポン玉ほどの大きさの身体では止めようがない。

それをわかった上で、翼はさらに破顔して少女の手を取った。

「いーの、いーの。石頭には事後報告!遊ぶぞー、七海ぃー!」

そう叫ぶと、翼は両手を勢いよく広げた。



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