旅立ち・3
そのまま七海と手を繋ぐと、翼はタンッと強く足を踏み出す。
つられて七海も──
引っ張られて躊躇いがちだった足を前に進めながら、だんだんとスピードが上がっていく。
「……走ってる?」
「走ってるよ!当然だろう?ほら、もうすぐだよ!」
何が?
そう尋ねるまでもなく、こちらを振り返る翼よりもっと先に切り取られた光の出口が見えた。
あれは──どこに続くのだろう。
突然好奇心が湧いて、七海は翼と笑い合いながら走る。
走る。
どんどん走る。
こんなに走るのは、いつ振りぐらいだろう。
以前はそうでもなかった。
いっしょに遊んでくれたこともあった。
だけど、誰だったか───
「七海ちゃんって、可愛いね」
そう言ってもらって嬉しかったのに、その後からは会わせてもらえなかった。
いっしょに行きたいといってもダメだと言われた。
『だって、ズルイんだもん。七海ばっかり』
何が『ズルイ』のかわからず、「ダメなんだって」とお母さんが困ったように笑いながら頭を撫でて、代わりに一緒に小さいお友達がいっぱいいるところに連れて行ってくれた。
なのに。
『ズルイ!七海ばっかり連れて行ってもらって!』
『意地悪して遊んであげないのに、『七海ばっかり』って言わないの!お姉ちゃんでしょ?!』
『好きでお姉ちゃんになったわけじゃないもん!』
妹なんて、いらない!
顔を思い出せないけど──そう言ったのは、確かにあたしのお姉ちゃんだった。
クンッと引っ張られるように翼の足が止まった。
手を繋いでいる七海の足が止まったからである。
「どした?」
「……おねえちゃんは?」
「は?」
「あたしだけいったら、『ズルイ』って」
「誰が?」
「おねえちゃんが……あたしだけ、ずるいって」
「ふぅん………でも、いないから、別に気にしなくていいのに」
「いない?」
「いないよ。ここにはいない。七海だけ」
「あたしだけ?」
何か会話が噛み合わない気がしたが、翼は不安げに瞳を揺らす七海の顔を覗き込むと、急にその身体をよいしょと声を掛けて持ち上げた。
「ひゃぁっ!?」
「行っくぞぉ───っ!!」
ダダダっと勢いよく音を立てながら翼は走り出し、七海が拒絶する間もなく光の出口を潜り抜けた。
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