旅立ち・1
くらっと眩暈がして、手が解ける。
落ちる────
そう思った瞬間に、七海はまた闇に沈み込んだ。
「ょぉーぃ………っしょっとぉ!」
その声と一緒に、身体がぽぉーんと放り出され、七海の目にはまた青空が映る。
「いきなり
「おち……?」
横を見ればまた『つばさ』がいる。
「つ…つばさ…くん……?」
「おう」
一瞬知らない人のような顔をしたが、翼は七海の呼びかけで普通に『嬉しい』という感じの笑いに表情を変化させた。
そっちの方が、ずっといい。
「今日からはオレだけがアテンドするぜ!」
「あ、あてん……?」
「アテンド!添乗員!え~っと……そこまでの知識はないかな……『ツアーバス』って、乗ったことあるか?」
「ん~……?ちっちゃいときに、おじいちゃんとおばあちゃんが『ぶどうがり』につれていってくれた!」
『ちっちゃい』といっても、今の七海も
あの人が言い出すまでは──
『七海ばっかり取ってもらって、ズルイ!』
背が高くて、もうちゃんとブドウの房に手が届いて、自分でちゃんと大きな房を支えながらはさみでパチンと枝から切り取るのを見て、私も思ったのよ──
「お姉ちゃんだって、ズルイ」
「何?どうした?」
「えっ……う、ぅん……?なんだ、っけ……?」
何かを忘れてる。
何か、すごく悲しいことを。
何か、すごく痛いことを。
何か、すごく───
そんな七海の頭を翼はふわりと撫で、少しだけ悲しそうな目で見てからすぐに表情を変えた。
「思い出せないんなら、もっと後でいいよ。とにかく!オレが今日は七海の添乗員さん。『お客様、本日はブレイン・トラベラーをご利用いただき、ありがとうございます』」
「ぷふっ……なぁに?おしごとのひとみたい……『てんじょういんさん』って、『あちらにみえますのわ~』ってあんないしてくれるひと?」
「そうそう。それ!」
それならわかる。
空中にピシッと立って翼が七海の思い描く『添乗員』の真似をして片手をひらりと動かしたことで、七海はこれが『ごっこ遊び』だと
「じゃあ、てんじょういんさん?きょうはどこにいくんですか?」
「七海はどこに行きたい?」
「え?」
「どこにでも連れてってやるよ?海の向こうの暖かい国でも、超寒い雪だらけの国でも、七海が見たこともない高い山のある国でも、動物がいっぱいのところでも」
「……どこでも?」
「どこでも」
どこがいいだろう。
どこでもいい気がする。
でも、あえて『ここ』というのなら。
「………おばあちゃんちでも?」
「いいねぇ!あ、でもちょっと今日は時間切れ…かな。
「うん!楽しみにしてる」
次、ね。
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