金欠ローグと地下40階の迷宮

竹部 月子

金欠ローグと地下40階の迷宮

プロローグ

 迷宮の奥より闇をまとって現れたのは、子どものような背丈でローブをひきずり、フードから骨のめんがにょきりと突き出した得体の知れないナニカだった。

 ペタ、パタと独特な足音を響かせて、ステージへ上がると、喉の調子を整えてからマイクをつかむ。


「皆々様、はじめまして。ダンジョンの管理者でございます。本日は大変混み合う中、お越しくださいまして真にありがとうございます」

 しばし世界説明にお付き合いを、と断って管理者は背筋を伸ばした。


「ここより遙か遠い世界、ランベアード大陸は戦乱の時代を終え、平和な治世を謳歌おうかしていた!」

 話す声は少年のように軽やかで、歯切れが良い。

「それが今より10年前、突如大陸の中央にあるルゥド平原の地下に、巨大な迷宮ダンジョンが広がっていることが発見され、さぁ大変」


「迷宮への入り口の1つは、鉄の町ゴンゴルノのクズ石捨て場。もう1つは、こともあろうに王都ラダトキアの城下町と通じていた!」

 背景にドット絵のワールドマップが現れて、「ゴンゴルノ」と「ラダトキア」が赤い丸で点滅する。

「ダンジョンは地中に根を張るように、下へ下へと深く。内部に溢れる未知のモンスターは、深層に潜るほど強力。だが迷宮には、かつて大陸には存在しえなかった、強力な武器やマジックアイテムが眠っているぜ」


 ペペンと台上を叩いた管理者は、大きく息を吸って続ける。

「戦闘向けの能力ギフトを持て余していた冒険者たちは、それを知ると、こわごわとダンジョンに挑みはじめた。入るたび、生き物のようにその内部を変化させる迷宮に、時に涙の撤退を味わいながらも、新たな武器を手に、再び挑戦の炎を燃やぁす!」

 ガッツポーズをとる骨の面は、あきらかにノッてきた様子だ。

「しかしダンジョンのお約束。火のヴァンパイア、地のゾンビ、水のワーウルフ、そして風のスケルトンが10階ごとの扉を守護しているから、このボスに勝てなきゃ下には進めない」

 気付けば舞台の下に、4匹のモンスターのシルエットが並んでいる。


「美しき戦いを楽しもう。早く君に会いたいな」

「本物のゾンビラッシュを体験させてあげるからねぇ」

「今のオレに弱点は……無い!」

「ヒヒヒ、我ら四天王はいつでも挑戦者を待っておる……ほい、マイク返すぞい」

 みんなアリガトさん、と管理者は言って再び前を向いた。


「ついに、1つのパーティーが前人未踏の40階に到達し、大いなる望みを叶えたと言われている。現ラダトキア王、カシュバル=モーガンはそのパーティーを率いた英傑だ」

 ニッ、と骨の面が笑ったように見える。

「かくして、今日こんにちも迷宮は冒険者を飲み込み、吐き出し続ける」


 気付けばステージの真正面に、非常に大きく、底ぬけに禍々しいオーラをまとった魔王が腕組みをして立っていた。

 四天王はすぐにひざを折り、ダンジョンの管理者だけが、舞台上だったので目礼に留めた。


 背景のドット絵マップがほどけるように広がり、再び像を結ぶ。

 そこに現れたのは、銀の髪の下に、静かな青い瞳を持つ青年だった。写真写りが悪いのか、めっぽう無表情に写っている。

 横にステータス欄も表示されているようだが、それはまぁ、追々確認することにしよう。


「これは迷宮に挑む者たちと、ダンジョンを管理・運営するモノたちが、銀髪のならず者ローグを中心に、右往左往試行錯誤する物語であるっ!」

 えっ、そんなまとめ? と焦った四天王がうしろを振り返る。

 魔王はゆっくり腕組みを解いて、「ヨシっ」とポーズを決めた。

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