第11話 少年騎士とメイドさん
「スカー。他の探索者だ。黙って調教部屋に隠れてろ」
調教部屋スキルを発動して、影穴の中にスカーを隠す。
あまり他の探索者にこちらの手札を知られたくない。
「スカーの嗅覚スキルで、誰が居るのかまで分かればよかったんただけど……」
嗅覚スキルLv1では、レッサーコボルトか探索者かの判断が付かなかった
スキルレベルが低いと、まだ正確性に欠けるのだ。
俺は先客の2人を改めて見る。
「アイツらは何をしてるんだ……?」
大扉の前にいたのは、騎士の格好をした少年とメイド服を着た少女だった。
どちらも年若いながらも、美形と呼べる2人組だ。
特に少年騎士の見た目は絶世の美少年だった。
綺麗な中性的な顔の造形。ウルフカットの金髪に150cm程度の低身長。
絵に描いたような金髪王子様なんて現実にいるんだな。
だが何か揉めてるみたいで、少年騎士が跪くメイド少女を怒鳴っている。
そのせいか2人とも、俺が部屋に来た事に気付いていなかった。
「何度言ったら分かるんだ!」
「うぅ、すみませんエリオ様。私の不手際でこんな事に……」
洞窟の中だからか2人の声はよく響いた。
部屋の入り口にいる俺の所まで、その声が聞こえてきた。
「有栖さん。貴女の力を見込んで僕はあなたを雇ってるんです。それなのにボス討伐前に使い物にならなくなるなんて……はぁ、いっそこの場で解雇したいぐらいだよ」
「そんな!?」
「そう言いたいのは僕の方だよ。僕一人でボスと戦わなくちゃいけなくて困ってるんですよ」
ふむ。あのメイドさんが何かやらかしたみたいだな。
2人でボス戦するはずだったみたいだが、何かしらの事情で、メイドさんが戦力外になったようだ。
顔を真っ赤にしたメイドさんが、少年騎士にフラフラ近付き、縋り付いて謝りだした。
「どうかっ……どうか私を見捨てないで下さい! エリオ様に見捨てられたら、私はっ……」
「うわっ。離れろ! 臭いが移るだろう!」
少年騎士がメイドさんを振り解いて離れる。
「あぁ……そんなっ……、っ……ぅ……」
すげなく扱われたメイドさんが、顔を俯かせて泣き声をあげる。
黒髪ロングの髪が暗幕の様に顔を隠して表情までは見えないが、嗚咽しているのか喉を鳴らす音が洞窟内に響く。
そんな彼女の姿を見た少年騎士は、大きなため息を吐いて困った様子で立ち尽くしていた。
まさに修羅場って感じだ。
少年騎士の物言いはどうかと思うけど、下手に厄介ごとに首を突っ込む気は俺にはない。
2人とも早くどっか行ってくれないかな。
ボス部屋に行きづらいんだけど。
「うん?」
あっ、バレた。
少年騎士と視線がバッチリ合っちゃったよ。
いやまあ、隠れずに入り口に突っ立てただけだからバレるよな。
ちょっとだけ見るつもりが修羅場展開に驚いて立ち尽くしちゃってたよ。
「何か用……いや、こんな所に来たんだ。ボス部屋に用があるに決まってるよね」
「ぐふふ。いやぁ、お邪魔してすみませんね。その通りなんだけど、ボス待ちしてるんなら順番守りますよ」
キモ陰キャラをロールプレイ。
頭をぽりぽり掻いてニヤけながら近づく。
おらぁ、こんな俺と関わり合いたくないだろ。だから早くボス部屋に行かせてください!
「いや、こちらこそごめんね。ボス部屋の前で邪魔だったよね。僕等は諸事情で行けないんだ。先に行っていいよ」
なんだ。意外と紳士的じゃないか。
こんな俺を見ても嫌な顔しないとはな。
メイドさんへの態度から、少年騎士を悪者みたいに思ってたよ。
よし。ここは素直に先に行かせてもらうか。
『異性との会話が10秒経過。エロゲ選択肢スキルの自動発動条件を満たしました。30秒以内に提示された選択肢の中から1つを選んで下さい』
そう思ってたら、システム音声さんの声が頭の中でした。
あれぇ? 異性のメイドさんとは会話してないのに、なんで!?
【エロゲ選択肢】残り時間:30秒
①「お先に失礼します」と先にボス部屋に入る。
SP0.001獲得
②「ボス討伐する人員に困ってるなら、俺と一緒にボス討伐しませんか?」と共闘を提案する。
SP0.05獲得
③「ひゃっはー! お前ら2人とも身包みを置いていきやがれ!!」と戦闘を開始する。
SP1獲得
ええい。今回も迷ってる暇はない。
あれこれ考えるのは後回しだ。
選択肢③は……今回も選んだらアウトの内容だな。
最悪、通報されて逮捕されるか逆に殺されても文句言えないぞ。
普通に犯罪だし、この選択肢は論外だな。
選択肢①・②は……許容範囲内だ。
今は調教部屋スキル取得でSPが乏しいし、今回は②の選択肢を選ぶか。
「ボス討伐する人員に困ってるなら、俺と一緒にボス討伐しませんか?」
俺は選択肢通りにそう言った。
「ああ、やっぱりさっきまでの話を聞かれてたか。……その提案は僕等にとって助かるけどいいのかい?」
少年騎士は俺の提案に乗り気だ。
自分で言っときながら断れる訳ないでしょうが。
「ぐふふ。代わりと言ってはなんですが、魔石を多めに貰っても構いませんかねぇ」
夢の為に、金をいっぱい稼がないといけないからな。
提案したのは俺だけど、困ってるのは少年騎士の方だ。
これぐらいは譲歩して欲しい。
「魔石は全部譲るよ。ただしボスモンスターのドロップ品が出たら、その物次第だけど僕に譲ってくれるかい?」
「そちらがそれでいいなら構いませんよ」
俺にとっては好都合だが、変わった要望だな。
初級ダンジョン1階層のボスモンスターのドロップ品なんて、出現確率が低い上に、たかが知れてるだろうに。
「うん。だったらボス討伐後の話はこれぐらいにして、次はボス戦について話し合おうか」
「ぐふふ。話し合う必要ありますかね。【コボルトの巣窟】1階層ボスはコボルト1体。それにレッサーコボルト1体が一緒に出現するはずですよ」
初級ダンジョン低階層の情報なら、探索者協会のホームページに載っている。
事前に調べたけど、この2体相手でも俺1人で無理をすれば倒せるモンスターだ。
「普通ならそうさ。だけどその2体が相手なら、僕一人でボス部屋に入ってるよ」
言われてみればたしかにそうだ。
俺より良い装備をしてるエリオが、ボス部屋に入るのを躊躇う理由は無いはずだ。
「……普通なら?」
あれ?
今この人、聞き捨てならないこと言わんかったか?
「この【コボルトの巣窟】1階層ボス部屋は特殊でね。ボス部屋に入る前にある事をすると、出現するモンスターが変化する代わりに、ドロップ品が確定になるのさ」
何!? そんな話、俺は知らないぞ。
「ぐふふ。その情報は本当なんですか?」
「信頼できる情報源だよ。情報が後出しになったのはごめんね。だけどさっきも言ったけど、ドロップ品は僕が探してる物じゃなかったら君にタダで譲るよ。それにボスモンスター含めて魔石も全部君の物にしてくれ」
「……ボス部屋のモンスターが変化するそうだけど、俺たちの手に負えるんですか?」
夢の為とはいえ、命懸けの戦いはできるだけ避けたい。
「出現数は変わらないよ。コボルト1体と、その上位種がランダムで1体出現する。上位種は僕が相手するから、君にはコボルトの相手を頼みたい」
それが本当ならあまりにも俺に都合がいい話だが、逆に何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。
それにエリオが上位種を倒せる確証が無い。
「やっぱり――」
この話は無かった事にしよう。
そう断ろうとしたら、エリオが泣いたまま放置していたメイドさんを指差した。
「ダメ押しで言うけど、情報源はそこのメイドだよ。こんなのでもS級探索者だから信頼できるんじゃないかな」
「S級探索者!?」
S級探索者といったら、その力と功績が探索者協会に認められた真の実力者だ。
攻撃力などのステータスに、S段階が2つ以上ある人外 の存在。
探索者として、富と名声と力を極めた一つの到達点だ。
それがこの泣き崩れてるメイドさんなのか?
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