第8話 厄介な奴
4年前、父さんが再婚するって話を聞かされた時は、よかったねと祝福して新しい家族を受け入れていた。
血の繋がった母さんは、俺が小学校に上がる前に、好き放題やって他所に男作って父さんと別れていたからな。
それまで男手ひとつで俺と姉貴を育てた父さんが、幸せになろうとしてるんだから反対するわけが無い。
姉貴も俺と同じ意見だった。
家計を助けようと早くから探索者となった姉貴は、学業の傍ら上を目指して頑張っていた。
才能があったのおかげで、父さんの再婚話が上がった時には、18歳の若さで上級探索者として活躍するまで成長していた。
だから俺よりも父さんの再婚話を後押ししていたほどだ。
初めて義母さんと顔合わせした時、その優しい人柄から、この人が義母さんになるのかとこちらが照れるぐらいには好感を持てた。
ただ、義母さんの娘である美雷と初めて会って、こいつは厄介かもしれないと思った。
俺より1歳年下の美雷は、探索者に憧れていて姉貴とはすぐに仲良くなったし、父さんのことも受け入れてくれた。
だが俺に対してはそうじゃなかった。
「えっと、初めまして。これからよろしくな?」
「……」
一応、兄になるんだからと俺から挨拶したのに、美雷は一言も喋らず大きな瞳でジロッと睨みつけてきた。
俺がどうすればいいんだと戸惑っていたら、美雷は隣の席の義母さんに何か耳打ちしだした。
わずがに聞こえた「顔が……」という美雷の言葉で、俺は全て察した。
義母さんはそんな美雷を注意してたが、どうせ父さんや姉貴と似てない俺の容姿と体型を言ってたのだろう。
小さい頃からよく言われた陰口だ。
母さんが他の男との間に作った子供だろうと、周囲の大人の心無い言葉を嫌というほど聞いてきた。
下世話な噂話や話のネタとして隠れて喋っていたのだろうが、そういった言葉は意外と子供の耳に入るのだ。
そして心の中に澱となって残り続ける。
まあ、とにかくそれから一緒に暮らし始めてからも、美雷の俺への態度はあまり変わらなかった。
近頃は女王様気質の姉貴を見習って、美雷は俺を下に見てくるようになっていた。
それでも顔を合わせれば最低限の会話をするだけ、今の関係は十分進展したと言える。
家族として一緒に住んでいるが、近くて遠い不透明な関係。
――そのはずだったんだけど、これは一体どういう事だろうか。
『異性が屈服しています。エロゲ調教スキルの自動発動条件を満たしました。この異性はあなたのペットとして調教下に置かれます』
俺はシステム音声さんの言葉に困惑した。
聞き間違いじゃないのか?
そう思ったが義妹の美雷の頭上に、スカーと同じ逆三角形マークが見えていた。
そこに視線を向けると、美雷のステータスウインドウが目の前に出現する。
風間美雷
ジョブ:雷精霊術師Lv4
HP:72/72
MP:155/155
攻撃:F
防御:F
敏捷:D
器用:E
精神:D
幸運:G
SP:16
隷属値:50
愛情値:5
称号:【屈辱奉仕願望】
スキル:【初級精霊召喚魔法Lv2】【杖術Lv3】【雷精霊召喚魔法Lv4】【精霊降ろしLv2】【MP増加Lv3】【MP回復速度上昇Lv2】
やはりそれはスカー同様、普通とは異なるステータスウインドウだった。
探索者のステータスだけ見れば、中級探索者手前のレベルといった所だ。
中学生探索者の中でも、一歩実力が抜きん出た注目株なだけある。
「ねぇ、人の話聞いてんの? 見たい番組が始まるから早くしてよ」
美雷がイライラとした様子で聞いてくる。
番組を見たいってことは、テレビが置かれた1階のリビングルームに行きたいようだ。
今、俺たちが居る折り返し階段の踊り場は、2人が余裕を持って通れる幅がない。
ただしどちらか片方が壁を背にしてどいたら、もう片方は普通に通れるようになる。
「ぐふふ、そう怒るなよ――」
俺がどくからと答える前に、システム音声さんの声が脳内でした。
『異性との会話が10秒経過。エロゲ選択肢スキルの自動発動条件を満たしました。30秒以内に提示された選択肢の中から1つを選んで下さい』
【エロゲ選択肢】残り時間:30秒
①「すぐにどくよ」と壁側に寄って美雷を先に通す。
SP0.001獲得
②「もしかしてお前、生理中なの?」と壁側に寄って美雷を通す。
SP0.07獲得
③「これからお前を、俺なしでは生きていけない体にしてやるぜ。ヒャッハー!!」と壁尻スキルを自動取得して、美雷を対象に発動する。
SP2獲得
はい、出ました。
いつ見ても③の選択肢はいろいろアウトだなぁ。
①と②はやってることほぼ一緒なのに、セリフの落差ありすぎだよ。
だけど③はどうなるか気になっちゃうわ。
壁尻スキルをどう使うのか。実例を確かめるいい機会かもしれない。
その後は、家を追い出されるだろうけどね!
15秒経過。
もう時間がないし、ここは無難な選択肢を選ぶか。
「すぐにどくよ」
動き出した時の中、俺は壁側に寄って素直にどいた。
「ありがと。次はもっと早くしてよね」
美雷が一言多い感謝の言葉を残して1階に降りて行った。
俺も一言なんか言い返してやろうかと思ったが、今日は疲れてるので自分から厄介ごとを増やすつもりはない。
美雷が離れたら、エロゲ調教師の俺にだけ見える特殊なステータスウインドウも自然と消えていた。
とりあえず普通のステータスウインドウと分けるため、これを調教ステータスと名付けよう。
俺はため息を吐いて自室に向かうと、ベッドに腰掛けて頭から肌掛け布団を被る。
そして声が漏れないよう被った肌掛け布団の中、俺は盛大に声を張り上げた。
「隠れ屈辱奉仕願望ってなんだよ!!」
あの美雷に調教ステータスが出たのも驚きだが、それ以上に称号の意味の分からなさにツッコミたかった。
とはいえ思い当たる節はある。
昨夜、美雷に気絶させられて目覚めたら、着替えや歯磨きまでされていた。
記憶にないだけで自分でやったのだろうと納得してたが、あれは美雷がやってくれたのか。
「……だけどエロゲみたいに、俺が好きだからしてるわけじゃなさそうなんだよなぁ」
調教ステータスの隷属値と愛情値がその証拠だ。
美雷の隷属値は50。愛情値は5だった。
比較対象としてスカーの隷属値は30。愛情値は20だ。
美雷の愛情値が今日会ったばかりのスカーより低く、反対に隷属値はスカーより高かった。
隷属値と愛情値の上限と下限はまだ分からないが、俺に対して愛情がほぼ無いのだけは分かった。
モンスターであるスカーの好意の4分の1だよ。
0じゃないのが、これまた現実的すぎる。
「つまり美雷は、好きでもない俺に屈辱感を味わいながら奉仕したいってことか……」
ええっ、なにその歪んだ願望。
童貞こじらせた大人よりも厄介なんですけど。
というか怖いよ。
エロゲ調教スキルを取得したから分かったけど、いつからそんな風になっちゃったの?
「……よし。美雷の調教ステータスの件は忘れよう。俺にしか見えないし、一生胸の内にしまっとこう」
あんなのでも俺の義妹だ。
スカーみたいに調教せず、今の関係を保っていくんだ。
あんな厄介な称号持っちゃう奴を、俺自身が上手に扱える気がしないってわけじゃないぞ。
こうして俺は、その後も何度か出現したエロゲ選択肢で、ヤバそうじゃない選択肢を選び続けて明日に備えて早く寝たのだった。
明日は早起きして『コボルトの巣窟』に行かないといけないからな。
手遅れかもしれんが、スカーが探索者にやられていないのを願おう。
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