第22話 ひみご村
六人全員がヘッドライトを頭に装着し、懐中電灯を手にした。さらに桜紗、斗南、豪切、加賀島の四人は腰に巻いたウエストポーチのベルトにハンドランプを掛けた。
ウエストポーチは全員腰に巻き、中には札が六枚づつ入っていた。
びよんびよんと、松宮がゴム手袋を伸ばしながら確認している。防寒も考え、そのゴム手袋の上から軍手を全員が身につけた。桜紗はもちろん、紫桜たちも手際よく準備を整えていく。
最後に、首から下げているペンダントにはもう効力はなく、危険なだけだから外したほうがいいと桜紗は言い「で、これ、一番重要なやつな」
いたずらっぽく笑って手にしていたのは、虫除けスプレーだった。もうすぐ冬だとはいえ、虫はゼロではないからな、と全員に吹きかけている。
まるで、これからキャンプでも楽しむようだ、と斗南が思いつつ見た豪切は、完全に呆れ顔だった。それとは対照的に、松宮はうんうんとうなずき全身にスプレーしていた。
「どれくらいの広さなんですかね、この村」
斗南の問いに松宮は分からないといった表情で、肩を上下させただけだった。
暗く、荒れ果てた村の全体像は確認出来なかった。
「おお、この懐中電灯、とんでもなく明るいな」
松宮の想像していた、足元しか照らせないぼやっとした光とは段違いに明るかった。この明るさだけで気持ちが軽くなるのを感じる。
「一万ルーメン以上のLEDライトだからな。四、五時間は待つよ。では、作戦会議でもしながら、探索を始めよう」と、桜紗の指示で照明の点灯確認を終え、村の入り口付近の廃屋から調べる為、車で下ってきたばかりの坂を上る。
途中振り返った桜紗は、いくつもの廃屋があろう闇を見下ろしたあと、空に視線を移して言う。
「さざめ、この怨念の異常なほどの大きさを感じるか?」
「強い怨念は感じるけれど、奴のものかどうかが分からない」
「強いだけではない、もっと集中しろ。混ざっているんだ。すでに一つになっている——村全体を埋め尽くすいくつもの怨念を——」
桜紗は振り返り、豪切に教えるように言う。
「あの女は喰ったんだ——」
桜紗と斗南、松宮。豪切と紫桜、加賀島の三人一組で分かれて探索は行われた。
照明は桜紗、斗南、豪切、加賀島の持つハンドランプのみで、他の照明器具は消している。バッテリーを温存する為だ。
もし何か起こり、バラバラになった場合は、とにかく車に——結界内に入れ、と桜紗は二度、三度繰り返して言った。
目的はあの女の、怨念の出どころを見つけること。
「ピンポイントで、心霊ナビは出来ないのか?」
松宮がガレキをどかしながら、桜紗に問いかけた。
「村全体が怨念に包まれていて細かい場所までは分からないな。目と鼻の先まで近づかなければ」
「ゴーストスイーパーみたいにはいかないのか。万能ではないんだな」
言って松宮が肩を落とす。
「ゴーストスイーパー?」
首を傾げる桜紗に、すかさず斗南が「アニメの話です」とフォローし、さらに「他にその怨念を祓う方法とかは無いんですか?」と尋ねると「ん……そうだな、あることはある。が、あまりおすすめではないな」と桜紗は含みのある言い方をした。
「この村の荒れようは戦争によるものではなさそうだが、被害はどうだったんだろう? とっくに廃村になってはいたんだろうが」と松宮が疑問を口にする。
「すべて焼き払われていたなら、斗南くんも苦しまなかったかもな」と桜紗は言って背筋を伸ばし、腰を叩いた。
『ひみご村』——この名が村の入り口にある岩で出来た道標に彫られていた。
この村で間違いはなかった。
ほとんどの家は崩れ落ちている。
今が夏であったら、草木と虫で探索どころではなかっただろう。
森の中にも点々と人工物が見える。
こまかな残留物はほとんど無かった。
紫桜が廃屋の床に両手をつき、目を閉じ霊視を始める。
それが終わると壁を、朽ちた机を、廃屋一軒につき三、四ヶ所、目ぼしいものがあれば道端に転がっている物も手にし視ていく。
情報の何もない現状では、紫桜の霊視により視えるものだけが頼りだった。
その霊視では、まず直近の映像が頭の中に流れてくるようで、当時の景色はもちろん人物や行動、会話も視ることができ、さらに集中することで深く、より深く——過去に遡っていけるらしい。
しかし、ただ目で見るのとは違う頭の中で視るそれは、それだけで精神と体力を消耗してしまう。そのうえ無駄に消耗しないように情報の取捨選択に神経をすり減らしてしまうようだった。
それでも、まるで映像のフィルムを切断し、重要でありそうな情報とそれに関連したものを視て繋げていく作業を、紫桜は黙々と続けていた。
霊視をするその姿は霊妙で、全身が薄青く光っているようにも見える。
霊と対峙した時の桜紗や豪切の派手なアクションとは対照的に、静かで、それでいて周りの空気を緊張させていた。
紫桜の長い髪だけが風もなくゆらり、ゆらりとそよいでいる。
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