第46話
無人の礼拝堂に佇み、十字架にかけられたイエスの像を見上げていた優希の眸から、いつしか一筋の涙がこぼれ落ちた。
あの夜の修兵を思い出すと、どうしても胸の疼きが抑えきれなかった。
「俺は組長を殺る」と、修兵はあの時そう言った。「殺らねえわけにゃいかねえんだ。俺が俺であるために!」
優希はそんな彼に縋りつき、
「駄目よっ!人殺しなんて絶対に駄目!」
修兵の眸が哀しげに翳ると、優希は彼の身体を揺すって懸命に訴えかけた。
「いっしょに逃げよう。どこか遠くの、誰もいない静かな街で二人きりで暮らそう。ね?」
修兵は首を振った。
無表情を装ってはいるが、その眼は潤んでいた。
優希の身体を精一杯に抱きしめ、滑らかな髪を愛おしむようにそっと撫でた。
そして、諭すようにこう言った。
「今度捕まったら、いつ出てこられるかわからねえ。いや、もう出てこられないかもしれねえ。でも、俺の心はいつもおまえとともにある。それだけは忘れないでくれ」
「修兵くん……」
修兵は電話番号の書かれた紙切れを優希に手渡し、
「明後日の正午、この番号へ電話して、宮城春義って奴に俺のことを告げてくれ……大丈夫、信用できる男だ」
優希は修兵が自ら警察に囚われようと決心しているのを知り、動揺を隠せなかった。
思わず後ずり、声は震えてしまう。
「できないわ」と、優希は首を振った。
「頼む、やってくれ。俺のためにやってくれ、お願いだ!」
修兵は肩をつかんで詰め寄り、優希は言葉を失った。
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