第45話

 やがて、あちこちでサイレンが聞こえ始め、窓から外を見ると、ビルの玄関前にパトカーや野次馬が続々と集まってきた。


 間もなく警官隊が突入し、組長室の修兵はたちまち包囲された。


 気にも留めず煙草を吸い続けたが、制服姿の警官たちは咎めるでもなく、ただ壁のようにそこに立ち、無表情に見ている。


 しばらくすると、警官たちの間を割って見慣れた顔が現れた。


 いつものトレンチコート姿で、宮城春義だとすぐにわかった。


 修兵は机の上の灰皿で煙草を捩じり潰し、椅子から立ち上がった。


 黙って両腕を差し出すと、宮城は手錠を打ち、


「とうとうやりやがったな」


「こいつら以外は息がある。救急車を」


 修兵は部屋の隅の三つの死体に顎をしゃくって言った。


「わかってる」と、宮城は応えた。


 修兵は宮城を見た。宮城も修兵を見た。


「女なんぞ巻き込みやがって……馬鹿な奴だ」


 宮城の声には、怒っているような、憐れんでいるような、奇妙な情感がこもっていた。


 修兵の眸が穏やかに微笑んだ。


 宮城はちょっと目を伏せると、背後に立っている制服警官たちに命じた。


「連れて行け」


 修兵は二人の警官に両腕をつかまれ、間に挟まれるようにして連れ出されて行った。


 その後ろ姿を見送って、宮城は煙草に火を点けると、窓から外を見遣った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る