第39話
修兵は自分の悲鳴でベッドの上に跳ね起きた。
恐怖で心臓が縮み上がり、全身にぐっしょりと嫌な寝汗をかいている。
仕方なくベッドから起き出し、ガウンを羽織ってロフトの階段を下りた。
八畳の和室に入り、押入れから緑色の風呂敷包みを取り出すと、その下から古い木箱が現れた。
蓋を開けると、一丁のリボルバーが深夜の闇にまぎれ、不気味に黒々と光っている。
修兵は思いつめた表情で睨みつけた。
不意にインターホンが鳴り、彼は箱の蓋を閉め、風呂敷に包んでもとの場所へ戻した。
玄関へ立って行き、インターホンを見ると、うなだれた優希が立っていた。
急いでチェーンを下ろし、ドアを開けた。
しばし顔を見合わせた後、優希は黙って入ってきた。そのままリビングを抜け、窓辺へ立つ。
眼下の夜景を見下ろしながら、小さな声で呟いた。
「他人を決めつけるのはよくないことよね」
「……」
「人って何でもわかってるつもりでも、本当は何もわかってないのよね」
「すまねえ。黙ってて……」
優希は肯いた。
「あの孤児院は俺の故郷だ。どんなことをしても守りたかった。でも、駄目だった……」
「足、洗って」
優希の言葉に、修兵はうなだれた。
「ねえ……」
「俺もそうしようと思ってる」
彼はきっぱりと言った。
「でも、黙って引っ込んでるには、あまりにも多くのものを奪われちまった」
優希は息を呑み、修兵の横顔を見つめた。
「このケジメ、きっちりつけてからじゃねえと」
「どうする気。何をしようっていうの?」
修兵は答えない。
優希はその塑像のような胸に凭れかかった。
全身全霊で彼を気遣うように。
「無茶はやめて。お願い!」
彼女の甘い匂いが修兵の魂を激しく揺さぶる。
修兵は優希の腕を離し、窓から外へ視線を投げ、夜景を見ながらしばらくそのまま佇んでいた。
優希は寂しげなその背中を、息をつめて見守った。
やがて振り返り、修兵は言った。
「優希。ひとつ頼みがある」
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