第38話

 礼拝堂の建物を出てみると、裏庭でキャッチボールに興じている悟と次郎の姿が見えた。


 その向こうには、花壇に水を撒いている優希の姿も見える。


 礼拝堂の聖母像のように慈しみ深い彼女の姿を、修兵は遠くからしばらく眩しげにうっとり見つめていたが、すぐ厳しい表情に戻って歩き出した。


 門の外のマスタングへ乗り込もうとしたところで、不意に後ろから呼び止められた。


 振り返ると、奥野愛が立っていた。


 修兵の方へ駆け寄って、


「シスターに聞いたのよ。すぐにあなただとわかったわ」


「先生、俺……」


「何も言わないで」


「全部俺のせいです。先生が病気になったのも、孤児院を潰されたのも。みんな俺がヤクザだったせいなんだ!」


「誰がそんなことを言ったの。優希ちゃん?」


「……」


「あの子はね、決してあなたを憎んでるんじゃないわ。ただ、ヤクザが憎いだけなの。あなたがヤクザだから、他のヤクザと同じに見えてしまっているだけ。でも、私にはちゃんとわかってる。あなたがあんな人たちとは全然違うってこと」


「先生……」


「私はあなたを小さい頃からずっと見てきたんだもの。あなたがどんな子か、誰よりもわかってる」


 黙って見つめ合う二人の間を、包み込むようなそよ風が優しく吹き抜けていった。

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