第37話
修兵は、ジンの遺体が流れ着いたという多摩川の土手に佇んでいた。
形容し難い無力感と怒り、約束を果たせなかった朋二への申し訳なさで、胸の内は荒れ狂っていた。
白い菊の花束を川へ流すと、土手に停めておいたマスタングに乗り込み、優希たちのいる教会へと走らせた。
今さら合わせる顔のないことは承知だが、そうせずにはいられなかった。
教会の礼拝堂で行われたミサには大勢参加していたが、その人々の中に修兵の姿もあった。
修兵は心から祈った。
礼拝堂の美しい十字架に向かい、一心不乱に祈っていた。
やがて、終了の鐘が鳴り、人々がすっかり去った後も、修兵は誰もいない礼拝堂に一人佇んでいた。
ふと、近づいてくる人の気配を感じて身構えたが、教会のシスターだったので、ホッと力を抜いた。
「もし……」と、シスターは修兵に呼びかけた。
「は?」
「初めての方ですね。とても素晴らしい祈りのお顔をなさっていましたよ」
「はあ」
「あなたに神のご加護がありますように……アーメン」
そう言って立ち去ろうとしたシスターの背中に、修兵は咄嗟に声をかけていた。
これほど何かに縋りつきたいと思いつめるのは、生まれて初めてのことだった。
「何でしょう?」
シスターが振り返ると、修兵は思い切って打ち明けた。
「俺はヤクザです」
「はい」
「俺みたいな者でも洗礼を受けられますか。神様の子になれるんでしょうか?」
シスターは肯き、にっこりと微笑んだ。
「なれますとも。誰でも」
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