第36話

 空は厚い雲がたれこめ、今にも雪が降り出しそうだ。


 早朝の空気は冷たく、真奈美も修兵も吐く息が白く凍った。


 マンションの玄関口で、修兵は彼女に深々と頭を下げた。


「本当にお世話になりました」


「命を大切にね」


 二人はしばらく見つめ合い、修兵は踵を返して歩き出した。


 朝靄の彼方へ次第に遠ざかるその背中を、真奈美は少し寂しさも混じった気持ちで見送った。


 やがて、すっかり見えなくなってしまうと、彼女は玄関を入り、郵便受けから朝刊を取った。


 何気なくその場で開いてみると、隅の小さな囲み記事が目に留まった。


 記事によると、荒木ジンという室尾組の若い組員が何者かに殺害されたということだった。


「ヤクザ、か」


 真奈美はやりきれない気分でホッと溜息をつき、新聞を閉じるとエレベーターへ向かった。

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