第35話

 三週間ほど経つと、修兵は外出可能な程度にまで快復した。


 久し振りにシャワーを浴びると、左の脇腹にざっくり刻み込まれた深い傷痕が目立った。


 指先でそっとなぞってみる。


 シャワーを止め、真奈美が買い与えてくれた純白のバスローブをまとい、頭をタオルで拭きながらシャワールームを出た。


 タオルを首にかけ、リビングを抜けてテラスのある窓辺へ行った。


 修兵の部屋からの眺めにもよく似ていた。


 窓を細く開けてみると、いきなり真冬の冷え込んだ空気が流れ込み、慌てて閉めた。


 背後で玄関のドアが開き、真奈美が帰ってきた。


 窓辺に立っている修兵を眩しげに見て、


「すっかりよくなったみたいね」


「先生のおかげです」


 真奈美はキッチンでコーヒーを淹れた。


 それから、二人分のカップをリビングのテーブルに置き、ソファに腰を下ろした。


 修兵も彼女に向かい合って座った。


 黙々とコーヒーを飲んでいた修兵は、ふと視線を感じて顔を上げた。


 目が合うと、真奈美は囁くように言った。


「なんだか不思議」


「は?」


「三週間も一緒に暮らしたのに、私たちには何もなかった……」


「……」


「魅力ないのかな、私って」


 修兵は首を振った。


「私はよかったのよ……抱かれても」


 そう言って、真奈美はまっすぐに修兵を見つめた。


 修兵は苦しげに目を伏せた。


「大切な人のため?」


 修兵は答えなかった。


 カップをテーブルに置き、真奈美は言った。


「よけいなお世話かもしれないけど、あなたはやっぱり足を洗うべきだと思う。その人を大切に思ってるなら、あなたが立派に更生したことをわかってもらわなきゃ。今のままではいけないわ。勇気がいることだけど、お友達と同じようにもう一度人生をやり直すべきじゃないかしら、その人と一緒に……」


「あいつはもう、俺を許さないでしょう。この先もずっと……」


「あきらめられるの?」


 わからなかった。


 修兵は再びカップを取り、静かにコーヒーを飲んだ。

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