第34話

 気がつくと、修兵は柔らかなベッドに横たわっていた。


 うっすら目を開けると、白い天井が視界に広がった。


 すぐには状況が呑み込めなかった。


 まだ麻酔が効いているのかもしれない。


 身体が思うように動かず、首だけ巡らせると、ベッドの傍でソファに座った真奈美が誰かのピアノ演奏にじっと耳を傾けている。


 音楽に疎い修兵には何の曲かわからなかったが、真奈美の表情がそう感じさせたのか、何となく美しい旋律だと思った。


 真奈美は目覚めた修兵に気づくと、微笑を浮かべて歩み寄った。


「気がついたみたいね。もう大丈夫よ、知り合いの先生に頼んで傷口を塞いでもらったから」


「すみません、ご迷惑をおかけして……」


「気にしないで。私もいつかあの時のお礼をしたいと思っていたから、ちょうどよかったわ。何も訊かない。傷が癒えるまでここでゆっくりして行って」


「お気持ち、とてもありがたく思います。でも、俺をかくまうと先生も危険です。どうか、俺にはもうかかわらねえでください」


 上体を起こしかけると、脇腹に激痛が走った。


「まだ無理よ!」


 真奈美は修兵の身体を支えると、改めてベッドへ横たわらせ、心から同情のこもった声で呟いた。


「いろいろあったのね」


「……」


「あなたたちの世界は、私には想像もつかない……」


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