第33話

 この怒りをどうすればいい!


 やり場のない激情に呑み込まれるまま、修兵は夜の街を彷徨った。


 人気のない寂れた通りを、怒りにまかせて歩き回るうち、路地を曲がったところで、出し抜けに脇腹を刺された。


 懸命に捕まえようとしたが、相手は素早くその腕を擦り抜けて逃げ去った。


 傷口から鮮血が溢れ出し、グレーのスーツをどす黒く染めてゆく。


 修兵は脇腹を押さえ、よろめきながら歩いた。


 痛みが強すぎて、身体がどうなっているかもわからなかった。


 急激に動きが重くなり、意識が遠ざかる。


 完全に失った時が、おそらく最期だろう。


 路肩の電柱に激突して、歩道にひっくり返った。


 ほとんど視力を失いかけていたが、やっと明かりのある通りへ出ると、目の前のコンビニへ転がり込んだ。


 スーツは血まみれ、顔面は色を失い真っ青だった。


 唇が血の気を失って紫色になっている。


 ついに力尽きてカウンターへ倒れ込むと、店員の盛大な悲鳴が上がった。


「薬と包帯を……!」


 息も絶え絶えになりながら、修兵は店員を睨み据えた。


 店員はすっかり怯えきって、返す言葉もない。


 修兵はさらに何か言い募ろうしたが、そのまま床へ倒れ伏してしまった。


 店員が慌ててカウンターから飛び出し、


「しっかり!すぐ救急車を呼びますからね!」


 電話をかけようとした店員の手をつかみ、修兵は必死で首を振った。


「救急車はいいんだ!」


「でも」


 店員の声を、女の声が遮った。


「私が病院へ運びます!」


 そこに、カゴを手にした石井真奈美が立っていた。


 修兵はそれきり、意識を失った。

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