第31話

 朋二は公園横の緩やかな坂道を小さく口笛を吹きながらのんびりと下ってきたが、ふと背後に何者かの気配を感じて振り返った。


 どこにも人影はない。


 どうも神経が過敏になっているようだ。


 彼は苦笑混じりに小さく首を振り、また歩き出した。


 ほど近い茂みの陰で、何かが光った。


 不意に後ろから足音が近づき、振り向いた朋二の胸に、鋭利な刃物が深々と突き込まれた。


 周囲が、一瞬で朱に染まる。


 街灯の蒼白い光の下に浮き上がったその顔は、まぎれもなく祐二の取り巻きの一人だった。


 朋二が殺気立って睨みつけると、チンピラは恐怖にかられ、慌てて逃げ出した。


 後を追おうと三歩ほど踏み出し、朋二はそのままコンクリートの路上に転がった。


 しばらく痙攣し、すぐ動かなくなった。

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