第24話
「恩讐の街」 【前回までのあらすじ】
氷室修兵は一帯を支配する暴力団「室尾組」の若頭。
16歳の時、当時の組長室尾建造に見出され、以来側近として引き立てられてきたが、跡目を継いだ賢秀は父の寵愛を一身に浴びる修兵を快く思わず、ことあるごとに対立していた。
ある日、修兵は街で無法な取立てをする組員を自らの信念に基づき妨害し、賢秀の逆鱗に触れてしまう。
建造のとりなしでその場は難を逃れたものの、シマをめぐる仇敵「黒竜会」とのいざこざを独断で処理したことで、ついに賢秀の怒りが爆発。
黒竜会会長の殺害という難題を命じられてしまう。
命がけでその役を果たそうとした修兵だったが、会長を必死でかばう女を傷つけることができず、殺害に失敗。
逮捕されてしまうのだった。
修兵は懲役刑に処され、そして、三年の月日が流れた……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
早朝であった。
府中刑務所の長く古びた塀の一画に、一台のメルセデスが停まっていた。
車のそばでサングラスをかけた若い男が煙草を吸っている。
真冬の空気が肌を刺すように冷たく、男は幾度となく腕時計を見、しきりに時間を気にしていた。
やがて、刑務所の裏門が開いて、スーツ姿のひとりの男が中から出てきた。
氷室修兵であった。
背後で門が閉まると、若い男はサングラスを外して駆け寄り、丁重に頭を下げた。
「修兵さん、お帰りなさいませ」
修兵は黙然と見返した。
一つ大きく深呼吸してポケットからサングラスを取り出すと、ものも言わず歩き出した。
男が慌てて車へ先回りし、後部席のドアを開けた。
修兵は乗り込む直前、もう一度確かめるように相手の顔を見て、
「おまえ、確か朋さんとこの……」
「はい。舎弟の荒木ジンいいます。兄貴の命令でお迎えに参りました」
「俺の車どうした。俺のマスタング」
「あの車は組の事務所です」
「何で?」
「さあ、詳しいことは。でも、組長の命令でもうだいぶ前に」
「そういや、その組長はどこだ。迎えに来てんだろ。祐二は?」
修兵が辺りを見回すと、車から少し離れたところにトレンチコートの男が一人、ぽつんと立っている。
宮城春義であった。
二人の視線が絡み合い、宮城はゆっくりと車の方へ近づいてきた。
修兵の肩にそっと手を置き、
「とりあえず、おめでとうと言わせてもらうよ」
修兵はじっと相手の眼を見つめた。
「それにしても大した男だな。この三年、組のことはとうとう一言も喋らずじまいだった。伊吹の一声でドンパチだけは回避したようだが、おかげで連中、おまえがいない間も人々を苦しめ続けた。だがな、言っておくぞ。俺は必ずおまえたちの尻尾を押さえて見せる。おまえら極道はクズだ。暴力で弱い者いじめをするしか取り柄のないクズだ。いつかきっと引導を渡してやるからな」
宮城の手を肩から外し、修兵はメルセデスに乗り込んだ。
それを確かめると、ジンはドアを閉め、それから運転席へ乗り込んだ。
宮城はウインドー越しに車内の修兵を睨みつけている。
「出せ」と、修兵は命じた。
車が発進して、宮城は走り去るメルセデスを見送った。
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