第16話

 夜半、「麺辰」は修兵の手から不動産屋へ渡り、建物の取り壊し作業が始まった。


 作業を見ながら例の担当者と話していると、すぐそばにトラックが停まり、祐二が降りてきた。


「先生たち、きちんとホテルまで送ってさしあげたな」


「はい」


 修兵は担当者に向き直るとちょっと頭を下げ、


「それじゃ、後のことをよろしく」


「確かに」と、担当者は肯いた。


 修兵は身を翻し、トラックへ歩き出した。


 慌てた祐二が先回りして助手席のドアを開け、それから、トラックの前を回って運転席へ乗り込んだ。


 修兵もゆっくり助手席へ乗り込み、しばらく取り壊し作業の模様を眺めてから、


「出せ」と、命じた。


 トラックは発進した。


 ハンドルを握った祐二が、運転席で嬉々とした声を上げる。


「兄貴。あのとっつぁん、見てくれより全然いい人でしたねぇ。土地売ってくれた上に、その金を山分けだなんて。兄貴の取り分、3億4千万ですぜ、3億4千万!」


 車窓の夜景を見ながら、修兵はまた孤児院の子供たちと、御園優希を想った。

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