第14話

 修兵は、朋二が懇意にしているという不動産会社の待合室で、担当者が来るのを待っていた。


 革張りのソファに腰かけ、外の景色を見ていると、やがてドアが開き、メガネをかけた痩せぎすの男が一人入ってきた。


 修兵の真向かいに腰を下ろし、分厚いファイルをテーブルに置いた。


「どうもお待たせしまして。ええと、石川さんからご紹介の……」


「氷室修兵といいます。詳しいことは石川の方からお聞きになっていると思いますが」


「もちろん、あの土地が手に入るなら願ってもないんですがね」


 担当者は眉をひそめた。


「ただ、あの一帯は悪質な業者が何組も入ってますからねぇ」


 まるで自分たちは違うと言わんばかりの口調に、修兵は苦笑した。


「いくらで買ってもらえますか」


「石川さんの仕事ですからね……坪1200万といったところですか」


 ひゅうっと修兵は口笛を鳴らした。


「そいつは凄い」


 人間なんて進歩のないものだと思う。


 あのバブル景気でさんざん痛い目にあったはずなのに、また同じ過ちを繰り返そうとしている。


 担当者との打ち合わせを終えてビルを出た修兵は、待っていた黒いマスタングに乗り込んだ。


 運転席から祐二が不安げに声をかけてくる。


「兄貴。この件は深入りしない方が……下手すりゃ戦争になります」


「わかってる」


 修兵は肯いた。


「だがな、賽は投げられちまった。奴らの狙いは俺のシマ、そして室尾のシマ。このままのさばらせとくわけにゃいかねえ」

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