第10話

 宵の口の雑踏をしばらくぶらついていた修兵は、やがて舗道脇のガードレールに寄りかかって、上着のポケットから携帯電話を取り出した。


 持ち歩くだけで普段は滅多に使うことがないため、扱い方もどこかぎこちない。


 ダイヤルをプッシュすると、無機質な電子音が三度聞こえた後、受話器の向こうで子供の声がした。


 すっかりおなじみの声だ。


「おう、めぐみか。俺だ。修兵だ」


「えー、修兵ちゃん?」


「悪いけど、優希がいたら代わってくれ」


「いるよ。ちょっと待ってて!」


 保留音に変わり、ややあって若い女が出た。


「もしもし、私。優希です」


「今、出て来られるか?」


 優希は応えない。


「会いたいんだ、久し振りに」


「どこにいるの?」


「銀座だ。おまえの話、聞かせてくれ。学校や大学の話……」


「相変わらず強引ね」


「マリオンの前で待ってる」


「いいわ」


 携帯を閉じると、しばしその場へたたずみ、星も見えない夜空を見上げて歩き出した。


 ――そして一時間後。


 修兵は約束どおりマリオンの前にいた。


 少し早めに着いて待っていると、やがて彼を見つけた御園優希が、人ごみをかきわけながら近づいてきた。



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