第9話

 暖簾をくぐって表へ出てみると、大通りは無数の車でごった返していた。


 店から出たところで、建造は修兵の肩に手を置いて言った。


「ここでいい。ぬしとも話せたし、後は一人で東京見物じゃ」


「お送りします」


「余計なことをせんでええ。わしゃつるんで歩くのは好かん!それとも何か、親の言うこと聞けねえか」


「ですが……」


「ぬしにゃ、わしや賢秀なんぞよかもっと大事なものがあるじゃねえか」


 よくわからない。


 建造は苦笑交じりに続けた。


「ぬしんシマじゃ。そこに暮らしとる人たちじゃ。彼らの暮らしが豊かになるも貧しくなるも、ぬしん器量次第よ。わかるな」


「……御隠居!」


 体内を熱い血潮が駆け巡り、修兵はブルッと武者震いをした。


「じゃあな。せいぜい気張りいや」


 歩み去る建造の丸い背中へ、修兵は幾度となく頭を下げ続けた。

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