第7話

 前田と石橋に挟まれるようにして椅子の背に凭れ、両脚をデスクに投げ出している四十前とおぼしきその男こそ、室尾組組長、室尾賢秀(けんしゅう)であった。


 賢秀は目の前に静かに立っている修兵へ、冷たい口調で言った。


「のう修兵。おめえ、前田と石橋の仕事邪魔したそうじゃねえか」


「お言葉ですが、年端のいかねえガキをいたぶるのが仕事ですか」


 反抗的な修兵の態度に、賢秀は激昂し、デスクに拳を叩きつけた。


「誰に意見しとるか、われ!借金の取り立ても立派な仕事じゃ。ガキだろうが何だろうが借りたもんは返す、それが世の中のルールってもんじゃ。他人の仕事を邪魔したらどうなるか、おめえも極道のはしくれなら分かってるはずだな」


 賢秀は一番上の引き出しから匕首を取り出し、デスクの上に置いた。


 修兵は眉をひそめた。


 手に取って鞘から抜き放つと、ギラッと不気味な光を放つ。


 すると、そこへ部屋のドアが開いて、和服姿の小柄な老人が入ってきた。


 誰にともなく胡散臭そうにつぶやく。


「ぶっそうだの」


 先代組長の室尾建造であった。


「親父!」


「しまいや、修兵。そんなもん」


 修兵は息を呑み、緊張した面持ちで匕首を鞘に収めた。


「親父ぃ!」


「賢秀、おめえもわしの顔を立てると思って、ここは水に流しちゃくれめえか」


「だが親父、それじゃ組のケジメってもんが」


「だから、わしがこうして頭を下げちょる」


「このままじゃ組の連中に示しがつかねえんだ。俺に跡目を譲ってくれたんじゃねえんですかい。だったら」


「じゃかあしい、誰に向かって口きいとるか、われ!」


 その体格からは想像もつかない凄みのある一喝がとんだ。


「世間知らずのヒヨッコがあ、いっちょまえに親に意見するかぁ。わしんツラぁ修兵の指より小せえぬかすんかい!」


「そんな、親父……」


「この修兵が今まで、わしやぬしんためにどれだけ尽くしてきたか、よう胸に手を当てて考えてみい。てめえでてめえの右腕切り落とすような真似しやがって。腐っとるんかい、われん脳味噌は!――この話はこれでしまいじゃ。分かったな、賢秀」


 賢秀は唇を噛んで答えない。


「分かったな!」と、建造の眸に怒りの色がみなぎると、仕方なく不承不承に肯いた。


「はい」


 建造は修兵を振り返り、


「修兵、飯じゃ」


 言い捨てると、大股に歩いて部屋から出て行った。


 修兵は慌てて後を追う。


 二人が出て行ってしまうと、石橋と前田が口々に言い募った。


「組長、いいんですかい。このまま修兵の野郎のさばらせといて」


「あの野郎、人をコケにしやがって……」


 唐突に、賢秀は二人を怒鳴りつけた。


「うるせえっ!」


 そして身を翻して窓辺に立ち、ギリッと歯軋りをした。


「くそ、親父の奴。修兵ばっか可愛がりやがって。血のつながった俺より、あの野郎の方がいいってのか!」

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