第5話

 人気のない夜の埠頭に三つの人影があった。


 前田と石橋が狂犬のように激しく息巻くが、修兵は彼らを無視して、海に向かい悠然と煙草を燻らせていた。


「いいか、約束の時間に一分でも遅れてみい。組のケジメをつけてもらうぜ。200万ぴったり耳を揃えてなあ」


「喚くな。一秒でも出たら首をやる」


 やがて、闇の向こうに車のヘッドライトが現れ、続けてクラクションが鳴った。


 三人の真ん中へ滑り込んで停まったのは、修兵の黒い911である。


 運転席のドアが開き、祐二が跳び降りてきた。


「兄貴!」


 慌てて修兵に駆け寄る。


「祐二、キーをよこせ!」


 釈然としない顔で、祐二がキーを修兵に手渡した。


 修兵は受け取ったキーを石橋たちの方へ抛り、ピシャリと言い放った。


「この車を持ってけ。中古屋に叩き売っても200万はくだらねえ」


「修兵よう、こちとら現金が欲しいんよ」


「御託並べてんじゃねえよ。銭がなきゃ赤ん坊の布団でもはいでく外道が!」

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