第4話

 修兵は夕暮れの街を、涼しい風に吹かれながら気持ちよく歩いていたが、その気分も長くは続かなかった。


 行く手に、二人組みの男に執拗に絡まれている若い子連れの女がある。


 しかも、絡んでいる男の顔には、どちらも見覚えがあった。


 同じ組の前田と石橋である。


 修兵は歩調を速めて歩み寄り、厳しく声をかけた。


「俺のシマで何しとる!」


「よう、修兵か。このガキの親父とお袋がフケちまってよ」


 石橋は借用書をちらつかせ、蛇のような舌なめずりをする。


 女が男の子を強く抱きしめて叫んだ。


「あんたたち、子供相手に何をしようっていうの。小学生に支払い能力があるとでも思ってるんですか!」


 石橋が、ブラウスの上から彼女の胸をつかんで顔を寄せる。


「そんじゃ、先生にカラダで肩代わりしてもらおうかねぇ」


「よう、石橋」


「何じゃい!」


 修兵の声に振り向いたとたん、その顔面に固い拳が叩き込まれ、石橋は後ろへのけぞった。


 前田の怒号が轟く。


「な、何しやがる!」


「このボウフラども、恥を知れっ!」


 飛びかかろうとした前田の腹に、修兵の膝が蹴り込まれた。


 石橋の手から借用書を奪い取り、真っ二つに引き裂く。


「てめえ、こんなことしてただですむと思っとるんか!」


「おう、俺が払ってやる。こんなガキをいたぶって、何が極道だ」


 男の子は女教師にしがみつき、その胸に顔をうずめて泣いていた。


 彼女は呆気にとられ、目を丸くして修兵を見つめている。


 子供の頭にそっと手を置き、修兵は言った。


「ボウズ、男なら泣くな。怖い思いをさせて悪かったな。そちらの先生も、ここはひとつ俺に預からせてください」


 女教師は、言葉もなくじっと彼を見ていた。


 修兵の胸で、子供を守ろうとする女の姿が優希の面影を彷彿とさせた。

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