第2話

「すみません。さんざんお世話になりながら、勝手に飛び出しちまって」


「いいのよ。誰にでも巣立つ日は来るんだから……男の子ならなおさらね。それに、今はもう見違えるほど立派になって。哲朗が生きていたら、どんなにか喜んだことでしょうね」


 そう言って愛は嬉しそうに笑ったが、自分の正体を未だに告げられない修兵は、その笑顔に胸が痛んだ。


「みんな、どんどん大人になっていくのね」


 愛はしみじみ呟き、それから急に思い出したように身を乗り出した。


「それはそうと、修兵くん。あなたに話そうと思っていたことがあるの」


「何です?」


「優希ちゃんが帰ってきたのよ。今年の春、大学を卒業してね。小学校の先生になったの。近くの学校で教えているわ。夜は帰ってきて子供たちの相手もしてくれて、本当に助かってるの。きれいになったわよ」


 修兵は絶句した。


 脳裏をよぎる幼い優希の記憶から彼女の姿を想像してみようとしたが、うまくいかなかった。


 庭先へ目を遣ると、池で鯉が跳ねた。

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