第19話 雷命の子孫

 私は生まれながらにしての天才だった。

私の魔術を防げた人間は1人もいなかったし、私との勝負に勝てた人間はいなかった。

なぜなら私のこの2つの魔眼で自分の好きなように過去と未来を変えられるから。

私ならご先祖様の3大英雄にだって勝てるとまで思っていた。


 だけどこのフードを被った怪しさ満載の女に出せる最高速の電撃を当てようとしたが珍しく私の攻撃は不発した。

あの女は自信満々でゲームをしようと持ちかけてきたが、油断しきったあの女が私に勝てるわけない。

次の日の朝、私達は校庭へと向かった。

そこには決闘の判定をするために来て下さった校長先生がいた。彼は数人しかいない私の正体を知る人物だ。


「校長先生、決闘を認めて下さってありがとうございます。」

「ん?彼女のやる戦いを見れるなんてそうそうないですし、先に契約されていましたし。それに決闘は教師が見守った上でやらねばいけませんから。」

「でも他の教師にやらせたりしないんですね。それに、彼女が言っていたんですが本当に剣神の血筋なのですか?私の部屋に来るって事は大貴族なのは間違い無いですが。」


するとそれが聞こえたのか彼女はじーっとこちらを見つめてきた。


「昨日からずっとそう言ってるでしょ。」

「えぇ、そうですね。彼は確かに剣神の血筋ですよ。私は貴方のを知った上で言っておきますが、はっきり言って貴方が彼女と戦うのは1人で帝国と戦争する様なことですよ?

恐らく、あなた如きでは彼女に触れる事すら出来ませんよ。」



 こいつ、本当に剣神の血筋だったなんて。まさか剣神に隠し子がいたとは驚きね。

でも残念、この世界で彼に勝てる世界線が幾つあるかも分からないような人が何を分かった口で言ってるのかしら?校長もお年だし、もうボケてきたのかしらね?


「校長、それは私が負けてから言って下さい。」

「…はぁ、ではお互い準備して下さい。」


 私は杖を構えるが、彼女は何もせずただつったってるだけだ。


「早く構えなさいよ。」

「なんで?」

「今から戦うのよ?何を考えてるの?」

「え、貴方もしかして私が剣を使うと思ってたの?」


 その言葉は私をイラつかせるには十分だった。こいつは剣士であるにも関わらず剣を抜かないと言う、それは私にとって最大級の侮辱だった。


「まぁまぁ、落ち着いてください。その怒りは今からぶつけてください。では、開始!」


 まずはっ、


 え?


 その一瞬で起こった出来事を理解する事が出来なかった。

その時、私の両腕と両足は鮮血を撒き散らしながら千切れたのだ。

途轍もない痛みが身体を襲う、支えを失った身体はそのまま地へ落ちる。

目でその剣筋を見る事すら出来なかった。


 意味が分からない、きっと何かの間違いだ。

 私はそう信じながらすぐに過去へ戻る。

そんな訳ない、あり得ない。私が何度も繰り返すのに彼女は私を殺さない程度に加減して攻撃してくる。まるでお前なんて簡単に殺せると言った嘲笑のようにも思えた。


 そして、今試せる全ての選択肢を見た。何百兆と言うループをした。

だがそれでも彼女には勝てなかったのだ。本当に触れる事すら叶わない。その結果は私の積み上げてきた物、プライドをボロボロにするにはあまりにも十分すぎた...



 私は戦闘が始まると取り敢えずは彼女がどんなふうに戦ってくるのかを待っていた。


『彼女凄いねー今試せるだけの選択肢を1つ1つ全部やってるよ。絶対勝てる訳ないのにねーあ、400000回行きましたね。』

(まじで?まぁそれなら可哀想だし戦うより実力を見せた方がいっか。)


 彼女の方を見るがもう絶望したような顔をして、足をガクガクさせながらへたり込み涙を流していた。側から見たら急に崩れ落ちたみたいな状況だから変な誤解されそうで怖い。周りには人も集まってきたのでさっさと終わらせたい所だ。


「ねぇ。」

「どうしましたか?」

「あの山使っていい?」


 私は後ろに見える中央山脈を指差す。


「別に良いですけど、民間人に被害は出さないでくださいよ?」

「ありがとう。じゃあしっかりと見ておいてね!世界最強の一撃を。」


 近くに立てかけてあった訓練用の剣を使い山脈の方に向かって斬撃を放つとその山には穴が開き、大きな音を立てて崩れ始めた。


「分かる?これが私の力。本気を出していない私でボロボロの貴方では勝てないの...これが三代英雄の剣神の力だから。…どう?負けを認める?」

「…はい。負けました、もう無理です。だからもうやめてください。もう痛みは感じたくない。」


 彼女はちょっと涙目で私に抱きついて縋るようにお願いしてきた。歯を食い縛り、自分のプライドを捨てての降参だ。

そりゃ辛いよな、いくらやっても勝てない相手に何兆回も戦った結果の降参なんだから。


「じゃ、貴方は私の仲間になってくれると言う事で。」

「何の、ですか?」

「ん?世界の統一のだよ。君の未来を改変できる力は私を確実に王にすることができるんだからね。」


 彼女はその未来が見えたのか少し笑ったような、泣きそうな顔をしていた。一体どんな未来が見えたのだろう...



 彼女はこの時、この先の自分の人生について書かれた本を見たと日記に残していた。

その本に書かれていた内容はこうだったと言う。


 ・時空眼 クリミア=ハーリア・リアナ (生,325年〜没,402年)


・始皇帝レスタ王の右腕として世界に名を馳せており、それぞれ未来と過去を自在に改変する事が可能な二つの魔眼を使い王の望む未来へ導いていたとされる。

・旧帝国学校でレスタ王との決闘に敗北した事で彼女に仕える事になった。

その決闘によりその頃大陸中央にあった中央山脈が破壊された事により、当時の世界の物流や魔物の生態系にも大きな影響を受けたとされる。その後彼女は精霊エルフ族のリア・コンソレプナ(生,324年〜没,1235年)共に王となった彼女に死ぬまで仕えていた。


・彼女は魔術面でも大きな影響を残しており、彼女の生み出した簡易魔道具はライターや水道などに応用され現在でも彼女が作った魔道具会社のハース社は世界でも名だたる高級魔道具会社である。

彼女は死後、レスタ王の隣に埋葬され現在は神代教の聖地として精霊の棲家に安置され現在は各州での不可侵条約を交わされている。


そして彼女は王の死の5年前に亡くなり、皆に見守られながら書き記した日記の最後にこう書かれていたが、その意味は現在においても不明である。


廻る世界で廻り回る貴方は、果てなき終わりのその最後の旅、いずれの違う私と共に。


 発行3549年 レスタ王の功績

 参考図書    ヘレナの日記

       初代教皇の真実

       第三次魔王進撃

著ヘル・ウィード





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