第1話 闇の帝王


 目を覚ますと、私は先程のソファでさっき買ったエルフの女の子に膝枕されていた。


「もう、無茶したらダメですよ。死んじゃったら私、困っちゃいます。」

「ふふ、ごめん。でも過去にケリをつける気持ちの準備はできたかな?ありがとう。」

「ふふ、先程は悪かったですね。しかし予言眼ではこれが最善でしたので。どうなるかは、これからの貴方次第です。また1週間後、お会いしましょう。」


 彼はそのまま私達を魔法で外に送り再びさっきの門前に戻ってくると、そこには迎えにきたチャペラが立っていた。


「チャペラ…君は心を読む術でも持ってるの?」

「…ええまぁ。あそこに向かうのですね。」

「うん、教皇ではなくとも自分のしたことの責任程度は取るつもりだよ。自分の過去にはしっかりと向き合わないといけない、あそこに案内してくれ。」

「はっ、では向かいましょう。」


 私は横にあった馬車に乗り込み、そこへ向かう。


「さっきのメイドは?」

「彼女ならもう別の仕事場へ向かいましたので、気に入られたのなら呼び戻しましょうか?」

「いや、良い。それよりはこの子をどうすれば良いと思うか聞きたいんだが。」


私は隣で模擬戦の間に仕立ててもらった服を着てもぐもぐとシュークリームを食べている奴隷の少女を見た。やはりエルフは美形が多いというのは本当だな。


「貴方名前は?」

「えっと、リアって言います。リア・コンソレプナです。」

「リア、ね。貴方がもし本当に身も心も全てを捧げてこの方に仕えようという気持ちがあるのならこの紙に血胤を付けなさい。」


 彼女の渡した紙には彼女が読めないようにわざわざ古代語で書かれた永続契約の紙を出した。かつて強大な魔獣を使役するために生み出されたものだから効果はそこらのものとは比べ物にならない。かつて魔王はこれを使って飛龍を使役してたらしい。なんとも恐ろしい話だ。


彼女は大丈夫なの?と言うふうにこちらを見てくるけれど私からしたらどちらにせよ奴隷と飼い主の関係はなくなるだから別にどちらでも良い。彼女が行くあてのないまま同じような事にはなって欲しくはないが。


「じゃあ、やります。」

「ここが最後よ。この契約は一生続く、貴方の全てをレスタ様に捧げる?」

「はい、誠心誠意お仕事させて頂きます。」


 ガリっと自分の指をかじって紙に血胤をする。

 その時に紙は光り輝き、彼女の奴隷の首輪がガシャンと音をたてて取れた。


「えっ!なんで奴隷契約が…」

「ふふ、レスタ様に買われた負け惜しみでお前に呪いをかけている豚貴族が居たからな。貴方にかかっていた契約や魔術を全て解除しただけだ。それに今から行く所にそんな首輪を付けていてはみっともない。」

「何処へ向かうんですか?」

「ま、着いてからのお楽しみにしといたら?まだまだ先は長いんだしのんびりしながらねでもちょっとワクワクしてきたわ。」


 そこから馬車に揺られる事4時間、遂にその場所に到着した。


「ここっ、ここってぇ!」

「魔王城ね。」

「魔王城ですね。」

「うっそぉ!!!」


 ここ、実は昔魔王を殺した後に反乱分子を暗殺するチャペル部隊の裏の集会所に使っていたのだ。


「これをお使い下さい。」


 それは狐面で目の部分は空いていないが景色は見える不思議な面だった。なんでこんな物をつけさせるんだ?

今の私は黒いローブを纏い、赤色のドレスを着て狐面を付けている。客観的にみなくてもただのヤバいやつだ。


 私達は城への長い長い空に浮かぶ階段を登り、大きな扉を開ける。

そこには大きな机に4人座っている。

私達を見てくるのはかつて私に仕えていた物達だった。彼らもチャペラと同じように姿はあの頃から殆ど変わっていなかった。

するとその中の一人がこちらに近づき、私に剣を向ける。


「おい女ぁ!チャペラ様を横に歩かせてづかづか真ん中歩くとは良い度胸してんなぁ!?」

「おいチャペリ、お前のようなガキがこのお方に無礼をなすな。殺すぞ?」

「やめろ、仲間同士でそんないがみ合うな。」


チャペルは変わらずクールなタイプのままだ。

私にガンを飛ばしてきたチャペリ君は昔からお姉ちゃんみたいだったチャペラにそんな事を言われると思っていたのか随分と驚いた顔をしている。

昔は犬みたいに甘えてきたチャペリ君も変わったのか。しかし、チャペラの言葉にみんなはどよめき始める。

かつて神じゃなくて私を崇拝していたチャペラが別人を自分より上に扱っている事自体が確かに信じられない事だしな。


 私はそんな驚く皆の真ん中を通り、円卓の奥にある大きな魔王の椅子に座って足を組んだ。


「歴史のお勉強だが、約340年前に魔王と相打ちになった勇者はこの場所で倒れ、伝説の剣である雷鳴を突き立てた。そしてこの場所で剣神はある宣言をした。」


 チャペリ君以外は私の正体に気がついたようだ。全く、もうちょっと彼には勉学を教えないとな。


「「「「我々神代教を神の名の下、

この世を統一し二度と争いのない世界にする。」」」」


 そして4人の言ったセリフでチャペリ君もようやく分かったようで、皆私の側に跪く。

リアはどうすればいいのか分かってなさそうなので私の側に立たせておく。


「改めて、今はレスタと言う名前で女になってしまったが初代神代教教皇のボレオスタだ。久しぶりだねみんな。」

「三百年間、お待ちしておりました。」

「ご復活心よりお喜び申し上げます。」

「我らチャペラ。貴方の命のもとに。」

「邪魔者はどんなものであろうと殺し。」

「必ずや貴方様の為に。」


 この会談は数千年年後、歴史を変えた大帝王の始まりとして永く語り継がれることとなったのだ。


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