第15話 模擬戦 剣聖視点


 何故、頭にはその一言が浮かんだ。

何故奴は、あいつの、ハースの剣を持っていたのだ。

あり得ない。それは、

しかし奴はそんな事も考えさせる暇を俺に与えずその剣で切りかかってくる。

間一髪で受け止めたのに何故か視界が揺らぐ。なぜ、力が抜け、てい...



 そこは田舎道だった。遠くまで広がり先が見えないような。

そこには懐かしい二人が立っていた。


「随分と長いトイレでしたね。ほら、早く行きましょう。」

「ねぇねぇ、レオ!あっちに着いたらまた剣の鍛錬付き合ってよ!」


 そうだ、俺まだ旅の途中だった。

まだ宗教も人は少ないし、早く次の街で信者を増やさないといけない。ハースは16歳なのに相変わらずふわふわと空をくるくると飛んでばっかだし、マリアなんて39歳にもなって20年ぐらいの付き合いになるが歩き読書をする癖があるから俺が見とかないと。


「あぁ、そうだな。よし、着いたらまた地獄の走り込みをさせてやる!」

「うぇー、やっぱなしなし!師匠!」

「何です?また実験の治験しますか?」

「イヤだよー!ほらもっとさ、ね!?」

「ふふ、じゃあ三人で模擬戦でもやりましょうか。」

「ちょっと待て!」

「ん?どうしたんですか?」

「どしたのー?まだおなかいたいのー?」


 模擬戦、何故かその言葉が心に引っかかる。なぜか涙が溢れてきた。なんだこれ、なんで泣いているんだ?訳わかんねぇ。


「どうしたの!なんか嫌なことでもあったの?」

「もう、本当に泣き虫なんだから。私達が側に居てあげますから。ほら、シャキッとしてください。」


 そうやってマリアは俺を抱きしめた。優しい心臓の鼓動が初めてあった時の事を思い出させた…


 そこは草原だった。だが目の前には黒く焼け落ちた俺の新居があった。設計まで自分でやった自慢の家だったのだ。俺は昼間なのにその怒りのまま道のど真ん中に座り込み、酒を煽り酔っ払っていた。


「クソ!殺す!殺してやるあのくそ野郎!

おい、女神ぃ!!!聞いてるんだろぉ!

どうせ、あの澄まし顔で笑ってるんだろぉ!!おい!楽しいか!!!こんな苦労してる人間を陥れて楽しぃかぁ!クッ、ソ、あぁあ!くそがァァ!」


 頭を掻きむしり悶えている俺の前にある女が現れた。その女は17歳ぐらいのでかい帽子を被ったthe、魔女って感じの見た目だった。


「ん、道の邪魔です、お酒を楽しんでいるところ悪いですが退いて下さい。」

「あ、抱いてください?」

「そんな事を言ってないです耳腐ってるんですか?」

「お前初対面に対してめちゃくちゃ言うじゃねえか。」

「お前の方がよっぽど頭パッパラパーですよ大丈夫ですか?」

「うっせー!こっちはイライラしてんだよ。ほら、退いたからさっさといーけ。」


 俺は立ち上がりその女を早く行かせようとシッシと手で追い払った。

 しかし女はこちらをジーッと見てくる。


「何だよ、お前。別にそんな可哀想とか思うなよ。」

「いえ、可哀想って思ってもらえる貴方の精神に驚いていました。」

「ぶっ殺すぞテメェ!」

「ふん、男というのは本当にバカですね。泣くぐらい辛いのなら酒などに溺れないで人に助けを求めれば良いものの。」

「は?何言ってんだよ。」

「貴方自分が泣いているのに気づかないって相当酔ってますね。ほら、状況を説明してみてください。悲しい事に私も時間は山ほどあるので。」


 確かに俺は泣いていた。その時の俺は心は壊れている事すら気づかなかった。

そうやって俺を抱きしめてくれたから、救ってくれたから、今があるんだ。

あぁ、そうだったな。俺はもう2人とは...


「なぁ、マリア、ハース。」

「なーに?」

「どうしたんだい?」

「…今までありがとう。辛い時も2人が助けてくれたし、俺はもう1人だけど大丈夫だから。」

「ふふ、どういたしまして。」

「どーいたしましてー!」


最後に俺は二人を抱きしめた。暖かいこの空間を去るのは辛い、失うわけ無いと思っていたこの時間にずっとこのままいて居たいな。


「ほら、もう行かないと。…どれだけの時がたっても、どれだけの人が貴方の敵でも、私は貴方を愛していますから、レオ。」

「僕も2人のこと大好きだよ!」

「あぁマリア、ハース...俺も、愛してるよ。」


そして二人を半分に切り裂きその鮮血を浴びた瞬間、世界はねじ曲がり、気付くとあの空間に戻っていた。


「…酷い人ですね。」


 彼はもう諦めたように首をすくめた。

 俺は起き上がり、彼の首を切り落とした。

 俺はその血溜まりに映る昔の自分の姿を見た。

 その時俺は自分の首に付けてあるものに気づいた。

 それはロケットペンダントで三人で撮った唯一の写真だった。笑った姿を少し見てその時を思い出して少し笑みが溢れる。

幻覚の影響がまだ少し残っていたようだ。


「バイバイ、二人とも。レオ、任せて。私が、レスタがやり切るから。」


 私はロケットペンダントを握り潰して自分の首を自分で切り、意識はそこで途絶えた。












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