第8話最後の試験

 遂にこの日がやってきた。


 魔道士、そもそも私が魔術を学び始めた理由は私が目指している帝都に行くと言う目標のために親から課せられた最低ラインだった。

そして、遂に認定試験が行われる。

これは卒業試験でもあり、彼女との最後の授業でもある。

周りに影響が出ないところまでの遠出になるので母さんにサンドイッチを作ってもらった。

 彼女と出会ってからもう5年、毎日毎日特訓に付き合ってくれて、今思うと長いようで短い時間だったしこの人生で一番長く接しているかもしれない。

 今日でおそらく彼女と会うのは最後になるだろう。今まで私を育ててくれた師匠との別れ、今度は後悔は無いようにしよう。


「大丈夫?ご飯は?杖は?しっかり持ったわよね?間違えて怪我したらダメよ!」

「もー!大丈夫だよ母さん!分かったから!」

「レスタの言う通りさ。もう大丈夫だよ。

僕達大人は子供の帰りを待ってあげるのが役目だろ?この子は強い子なんだから。」

「レスタは私が責任持って見守りますので!ほら、行きましょう。」


 昔は師匠の愛馬に乗ると全力で振り落とそうと暴れられたが、今はもうすっかり仲良しで毎日ブラッシングもしてあげている。

 おぉ、でも久々に馬に乗る時ってやっぱりいつもとは違う目線の高さだからちょっと怖いんだよね。


『今日はどんな魔法を使うつもりなんですか?』

(えーと、この爆撃魔法。)

『わぉ、これまた物騒な物を出してきましたね。」

(しょうがないでしょ。これ以外は見た目がパッとしないやつしか無いんだから。それに威力を出せる魔法だとこれが1番強いんだよ。)


 馬でのんびりと試験所の草原へ向かっていると周りの畑で農作業をしている人達がこちらに手を振ってくれたので私達も振り返す。


「もしかしたら私達親子みたいに見えているのかもしれませんね。」

「確かに、でも私は赤毛だけど師匠は黒色だからどうでしょうね?」

「ふふ、確かにそうですね。でもレスタ、私達の前では良いですけど帝都に行ったらもっとシャキッとしないといけないですよ?悪いところを見せると貴族ばかりですから変な目で見られてしまいます。」


 はぁ、あの偉そうに椅子で踏ん反り返ってる貴族どもはそう言う人の悪い所しか見ないからダメなんだよなぁ。そう考えるとまだチャペラは神代教の規律を守っているからマシな方なんだろうな。


 家をでて1時間ぐらいしてようやく人のいない広い平原に出るとそこに馬を止めて俺達は試験の準備をしていた。しかし、師匠は何やら準備を放っぽり出してリュックをゴソゴソしている。


「どうしたんです?師匠?何か忘れ物でもありましたか?」

「ひゃ!い、いえ!なんでもありません、そう!なんでも無いんです!ほら!早く準備しましょう!」


 こうやって師匠が慌てて噛みまくる時は大体隠し事をしている時だ。最初にあった時も名前を隠してたから焦って噛みまくってたし。まぁ別に悪い事では無いだろうから別にいっか。


 周りに結界を張り火事などが起きない様に対策をしっかりして準備は完了だ。こんな草だらけの草原で火事なんか起こったら大変な事になるからな。


「はい、えーとでは、魔道士見習いレスタ・クリミア・アリスシアの魔道士昇格試験を行います!とりあえず今日使う魔法を教えてもらえますか?」

「爆撃魔法です。」

「了解しました。では、試験開始です。」


 俺は両親に買ってもらった杖を空に振りかざす。

 爆撃魔法は圧縮した酸素の塊を火の魔力で包みそれを落下した衝撃で引火させて爆発させると言う物だ。


 魔力が少しでも穴が開くとそこから空気が抜けてしまうので、分厚めの魔力で包み慎重に酸素を圧縮していく。そして空には2メートルぐらいの大きさにまで圧縮された酸素の塊があった。


「準備はできましたか?」


 俺はこくっと頷く。


「放て!」


 その声が聞こえた瞬間、俺は空に浮かんでいた術式を地面に叩きつけた。

 衝撃をトリガーに魔力は破れ火が付き、その火はやがて圧縮された空気に引火して大爆発が起きた…成功だ。地面には大きな穴が開いておりシューと音を立てて煙が噴き出ている。


 集中していたので、魔力疲れが一気に身体を襲い仰向けに芝生へと倒れ込む。

昔の師匠はこれをもっと圧縮し手榴弾ぐらいの大きさにしたやつを軽々と作り敵に投げていたのだが魔術を学んだ今だから分かるけど相当凄い事をしてたんだな。


「はい、どうぞ。」


 疲れて倒れ込んだ私に彼女はそっと魔道士のバッジと綺麗な杖を渡してくれた。


「これは…貰えませんよ、こんな良い物」

「いいえ、貰ってください。これは、本来私が渡す物では無いんですから...」


 その杖に使われているこの木、ドラゴンが巣に使った木材だ。ドラゴンの魔力が宿っており、魔力が無い人間でも魔法を使えるレベルの魔力に溢れた杖だった。


「お願いです。それは貰ってください。魔道士試験、成功おめでとうございます。」


 彼女は爆風でぐしゃぐしゃになった髪を整えながら笑って言ってくれた。その笑顔が俺にはとても嬉しく感じた。


「…わかりました。では、これはありがたく頂きます。」


 杖を受け取り、バッジを魔道士見習いから魔道士のバッジに付け替えた。


「似合っていますよ。」

「ありがとうございます。」


 こうやって新たなこの人生で頑張った努力の結晶が形となってきらりと輝いているのがとても誇らしかった。


 その時、プルプルプルと言う音が彼女から鳴った。まるでスマホのバイブ音のような...

すると彼女はガラケーのような物を取り出し俺に渡してきた。


「お久しぶりです、教皇様。試験突破お喜び申し上げます。つきましては、帝国大学への入学手続きを今完了しましたので馬車をお送りいたしますのでこちらまでお越し下さい。」

「お前スマホまで…まぁ良い。帝大?それに急ね。確かに帝都には行くつもりだったけどそんなにすぐに行く必要はないでしょう?」

「今は魔道士以上のランクの人間は必ず帝大に3年は在学しなければならないと言う法がございますので。」


 まじか、遂にこの世界でも義務教育ができてしまったか。正直学校は昔のトラウマがあるし行きたいやつだけ行かせとけば良いとは思ってたんだけどなぁ。

 でもこの世界に技術を広めるものとしてこの300年間で発見された技術などを手っ取り早く学ぶにはやはり学校が良いんだよなぁ。


「あーもう!分かった。帝大には行く、約束するから。」

「了解致しました。準備はこちらで済んでおりますので後はご自宅の前に馬車があるはずですのでそれに乗ってくだされば屋敷までお送り致します。」


 もうほんとに、権力で無茶苦茶するなぁこの女。いや私も女だけど中身は男だし。

…でも最近身体の性別に精神が引っ張られているような感じがする。知らないうちに心までどんどんと女になっている。

…今考えても無駄か。


「ねぇ、最後に聞きたいんだけど」

「なんでしょうか?」

「この杖ってお前が作ったのか?」

「いいえ。それは、貴方の師匠が本来貴方が前世で魔道士なった時に渡すはずだった物です。彼女の研究室で貴方へのプレゼント用と書いたのが隠されていたので。こちらもお迎えの準備をするので、また帝都でお会いしましょう。」


 電話は切られプーッと音が鳴った。


 そっかぁ、あの時は両手剣をくれたけど本来はこれを渡してくれるはずだったんだな。

 今は亡き師匠の顔を思い出して少し泣きそうになってしまった。あれ?ふと思ったけどなんであいつ…


「それじゃあお昼ご飯食べましょうか。その時にまた昔のお話を私に教えた下さい。」

「良いですよ、じゃあ長いんでちょっとゆっくりしましょうか。」


 俺は考えを一旦やめてもう終わってしまう、この時間を俺は精一杯噛み締めた。





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