第四話 仲里編・いっそ夢ならば

school life

負け犬

 自分は当然、西高に行くものだと思っていた。

 別段、そこでやりたいことがあったわけではなく、特に通いやすい場所にあるというわけでもなかったのだけれど、西高はこの辺りでは上の下といったレベルの進学校で、だから自分は西高に進学することが無難だと思っていた。

 中学校での成績は常に上位だった。試験の前に必死になって勉強をしなくてもその位置をキープすることはできていたし、周りが受験勉強に目を向けだしてからも、自分が上位であるという状況が揺らぐことはなかった。

 そんなおれの成績ならば西高が妥当だと、担任も太鼓判を押していた。今のまま頑張れば問題ない。周りは皆そう言っていたし、自分でもそんなふうに思っていた。

 実際、入学試験は目標点数を超えていた。

 はずだった。

 風邪を治した後、未練がましく解きなおした五科目の試験は、当時の自分を呪っても足りないぐらいに、簡単だった。体調さえ万全ならば、試験中に意識さえはっきりとしていれば、おれは今頃西高生だったのだ。

 それが、このざまだ。

 藤葉高校の制服を着た、目つきの悪い男。窓ガラスに映った負け犬。それが仲里隆。認めたくもないけれど、こいつがおれだ。

 周りは、風邪だったんだから仕方ないと口をそろえた。二言目には、第二志望の藤葉高校でも十分だと慰めてきた。ここ藤葉は西高よりもワンランク落ちる学校で、それでも、それなりにデキるやつじゃないと入れない、と認識されていた。

 実際のところ、自分でもそう思おうとした時期はある。風邪だったんだし仕方ない。藤葉も悪い高校じゃない。なにより、西高よりも校舎が新しくて綺麗じゃないか。

 そんな考えは、たった一つの雑音によってぼろぼろと崩れ果てたのだけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る