第四話:これで俺も一端の妖精騎士
つんつん、つんつん。
ちょうど泉っぽい場所があったからフリードに命令してそっちに歩かせる。森の生物たちにフリードをお披露目しようとしたが、誰もいなくてつまらなかったのもある。
つんつん、つんつん。
さっきから鬱陶しいなぁ。ちらっ。
「え? だ、誰ですか?」
フリードの肩に俺以外の搭乗者がいて普通にびっくりした。俺がいきなり声を出したせいだろう。フリードも動きを止める。
ぱたぱたぱたとフリードから降りれば、一緒に座っていたお客さんもついてくる。
妖精の俺と同じぐらいの大きさ。愛くるしい二つのお目目。なぜかすごいうるうる見てくる。
トカゲの身体に羽のように生えている二本の触手。よくわからんがすごい身体を震わせている。
……うん。君、さっきフリードがぶっ殺したタコとトカゲを混ぜたやつやんけ。
だとしても身体が異常に小さい。どういうこっちゃ?
頭をかしげていると、フリードが鋭い眼光で目の前のタコとトカゲを混ぜた生物を見ていた。
「フリード〜」
名前を呼んでやれば、フリードから放たれていた視線の圧が消えていく。すると、変な生物は大きく深呼吸して緊張感が取れた感じ。
ふ。俺の子供は素直で可愛いぜ。
なんとなく髪の毛をかき上げてカッコつけてみた。
ま、俺にはフリードいるし、深く考えてもしょうがない。
よぉ〜し。お前! 俺と一緒に泉で遊ぼうぜ!
俺はよくわからん生物と一緒に泉へ駆けた。
蜥蜴の身体に背中から羽のように二本の触手。見た目通りの名前だ。クラーケンとリザード。ついでに漢字とルビも決めといた。
フリードは……うん。ス、
こんな親だとしても見捨てないでくれよ、フリード!
ちらっとフリードを見れば、番人のように佇んでいる。威圧感半端ねぇぜ。もし俺が勇者とかだったらぶるっちまう。
ぱらぱら〜。
あ、やっべ。つい震えたフリをすれば花粉が舞ってしまった。
泉の中にいたお魚さんたちがメキメキとかボキボキとか、すごい物音立てながら融合したり変化していく。
う、うん。
目を背け、リザに近づく。すると二本の触手が俺の胴体に優しく絡みついた。きっと俺を補助してくれてるんだけど、ちょっとネバネバしていて気持ち悪い。
「どっこらせ」
ついついおっさん臭い声が出ちまったが、急いでリザに跨り泉から出る。そんな俺の頭にはさっき見つけたどんぐりっぽい木の実の帽子。そして、右手にはキラキラした爪楊枝のような細長い宝石があった。
ふふん。ついに俺にもリザという馬に兜と槍を持っちまったぜ。
これで俺も一端の妖精騎士かな?
フリードへ自慢するようにドヤ顔したが、フリードは特に表情を変えない。
ちっ。つまらん子供だ。
まぁ、今日生まれたばかりのベイビーだし、今日は多めにみてやるよ。
次からは表情を変えられるよう練習しとけよ!
ぺちぺち。
リザの体をタップ。リザは「キャキャッ」と鳴き声を上げると、草原の方へ走り出した。
これから世直しをしてやんよ!
まだ見ぬ敵よ! 妖精騎士の俺に成敗されろ!
「おらぁ!」
爪楊枝宝石を振り下ろせば、ダァンッッ! と俺の背後からフリードの剛腕が降ってくる。
「ふんがぁ!」
爪楊枝宝石を横に振れば、ブォォォオン! とフリードの剛腕が吹き飛ばす。
「そぉぉれ〜」
なんかこう、爪楊枝宝石を手元でくるくる回転させ、ピンと伸ばす。フリードの両目からレーザーが発射され、ドォカァァンッと爆発を起こした。
「いくぜ! 最大奥義!」
特に意味はないが身体をぐるぐる回転しながら、爪楊枝宝石で六芒星を描く。
何も起きない。
…………描く。
も、もう一度描いた。
フリードは動かない。
「ご、ごほんっ」
きっとフリードもこれ以上は無駄だと思ったんだろう。そうに違いない。
俺の両目が少しうるうるしているのは気のせいだ。いいね?
お手手でぐしぐしを顔を拭いて、すでに死んでいるそいつを見た。
ムキムキの身体に頭からねじれて生えているツノ。赤い体表はまるで赤鬼を思い浮かべる。ファンタジー世界定番の魔物、オーガ……ではない。
一応原型は残ってるけど、とんでもなく大きいんだよなぁ、これが。大きいはずのフリードを三体ぐらい合体させたほどの巨体だ。腕が六本ぐらい生えてて、三つの顔。
もう仏さんだけど、あえて名前をつけるとしたら
つうかさ、この森やばい生物多すぎない?
一番最初に遭遇したのは大鷹と狼を混ぜたやつ。無理矢理、名前にすれば
ファンタジーによく出てくる魔狼の身体だけど、頭部は大鷹。背中には大きな二つの翼だった。しかも口から炎を飛ばしてくるもんだから、避けるのも必死だったね。
え? お前とリザは手のひらサイズなのにそう簡単には避けられないだろうだって?
うるせぇ! 当たりめぇだろうがよォ、本当はフリードに庇ってもらったんだよ!
ふぅ、ふぅ。
次に
遭遇した瞬間、四度見ぐらいしたね。新種の寄生虫かと思ったよ。
とりあえず全員が全員、とんでもなく好戦的で愛くるしい妖精の俺もびっくりだよ。だけど、俺は妖精騎士。力を振り絞って爪楊枝の宝石を振ればなんか出るかなって試せば、フリードが動いてくれた。
最高だったね。まるで巨大ロボを操る主人公の気分だったよ。
「うぅ〜」
大きく背を伸ばし、うめき声を上げながら空を見れば、太陽さんもそろそろご就寝の時間。
「ふぅ。帰るか」
リザに跨り、操作しながらフリードの肩に登っていく。
「家の方向わかる?」
フリードに聞いても返事は来なかったが、おそらく家だろう方向へ歩き始めた。
ふわぁ〜。眠い。
大きく口を開いてあくびをしたら花粉が舞う。しかし、眠気の前にはどうでもいい。
フリードが動くたびに揺れる振動はまるで揺籠の中。眠ろうとする瞼と戦いながら俺たちは帰路についた。
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