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大学生になってからだろうか。ときおり私は一人でいるとき、黒い影のような、半透明な物体に遭遇する。それはどこからともなくやってきたり、私の体から出てきたり、私の身の回りのものが変化したりして私に話しかけてくる。さらに、それは変幻自在で、決まった形に捉われない。そして、それは私の心の中を正確に読むのだった。それは出てくるたびに毎回私に言う。私の夢の中に連れて行くと。私はよく分からないので、毎回断っている。今日は、私の着ていたシャツの裾から生まれてきた。それはシャツに似た形をしていた。

シャツの両腕をしならせるように広げ、それは自分の部屋の中にいる私へと話しかけてくる。

「また本を買ったのか。買ってからまだ読んでない本があるのに」

「この本が今どうしても読みたくなったからいいの」と心の中で答える。

「ふーん。いつも似たような本を買うな」

そう言いながらそれは私の背後へと回り、両腕を私の方へ回してくる。振り払おうとしても、その体は空気のようで私には掴めない。

「怖い話と爽やかな青春ものは読みたくない。恋愛ものは好き嫌いが激しい、というか嫌悪感を覚えるものが多い。厭になった本は捨てるの」私は少し後ろを向いて答える。

「そうか。なら、僕が連れて行こうか。君の夢の中へ」

「……やめておく。怪しいから」

「そう」

それはそう呟いて、私の体の側からふいと消えた。


私は昨日『ウエハースの椅子』という本を買った。

この本を本屋さんのサイトで発見してから、買わないと気が気でなかった。

最後まで読み切って、気になる部分を複数回読み返してみたが、多分この本を捨てることにはならないと思った。


「誰かをどこかに閉じ込めるなら、そこが世界のすべてだと思わせてやらなければならない」本の中の文章を、頭の中で繰り返してみる。


この言葉を初めて見たとき、私が真っ先に思い出したのは『この闇と光』だった。


私は本を読むのが好きだ。

『この闇と光』の主人公、盲目の王女レイアも物語を聴くのが好きだった。

レイアの暮らす国は戦争で負け、今は隣の国の兵士や、隣の国出身の召使ダフネが威張っている。レイアの母はレイアを連れて逃げようとして死んだ。

ただし、レイアの父である王は国民にとても慕われているので、国を奪われた後も兵士たちは王を殺せない。そこで、父である王とレイアはかつて「冬の離宮」だった森の奥にある別荘に監禁されている。

父はときどき城下や遠くの国の外れにも行く。なぜならば、準備が整うまで、国民たちが暴動を起こそうとするのを止めるためだ。


そんな中、レイアは、単純に好きとは言えないけれど、理不尽だと思う小説でも惹かれると言う。

レイアの父は、こう答えるのだった。

「確かにね。この世は理不尽で、この物語も理不尽だ。だから多分、お前も惹かれるのだろう。それを好むとか嫌うとかではなく、それがある真実に触れているから、理不尽という真実に触れているから、惹かれるのだと思うよ」





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