第9話

薄汚れた灰色の毛並みに長い牙、丸いフォルムだけど少しだけ長い犬サイズのネズミ。

きらりと光る四つ目、間違いない、チュラットだわ。


「早速目標の登場ね、じゃあ予定通り行くよ!」


チュラットの発見の声を聞くなり、ガタイの良い女の人はそう言って、

剣士の人に指示を出す。


でも、剣士さんは 説明聞きながらブルブル震えている。

あの剣士、大丈夫なのかしら。


チュラットはそこまで強くはないけど、攻撃を受ければ怪我くらいするわ。

前線で戦うみたいだけど……いや、意外に剣の腕があるとか……

剣士の人はチラリとチュラットを見た。


「ヂャーーーーーー!!!」


「ひいぃいいい!!!怖いいい!!!」


やっぱダメそう。


ちょっと牙向けて威嚇で唸っているチュラット見て叫んで逃げてる剣士さん。

ガタイの良い女性は彼が自分の近くを通った瞬間に腕を掴み逃亡を阻止する。


「ちょっと!逃げるんじゃないよ!」


「は、放してください!やっぱ僕には無理なんだ!

あんな凶暴そうなのと戦って勝てる気がしないよ!」


「あんた、初めてなのかい?初めてっていえばよかったのに……」


ガタイの良い女性が必死に彼を押さえていると、こちらに来て彼にそう言った。

確かにそれなら納得かも。

おっかなそうですこし気持ち悪いのよね……逃げたくなるのはわかるけど……


「そんなこと言ってたらいつまでたってもクエスト達成できないじゃない。

とにかく逃げるのはダメよ、戦わなきゃレベルも上がらないわよ」


私は彼の側まで行ってそう声をかけたのですが……


「初めてじゃないです……10回くらいはクエスト参加してます」


経験者なんかい!


「じゃあ、チュラットくらい慣れてるでしょ?」


「そうだよ、怖気付いてるんじゃないよ!さっさと言ってチュラットに攻撃をお見舞いしておいで!」


女性2人に喝を入れられ、背中を押された剣士さん。

その勢いでチュラットの前までフラフラっと歩み出る。


ずっと警戒態勢だったチュラットは、そんな頼りなく歩いてきた人間でも敵だと認識したらしい。


「チュジャアアアアアア!!!!」


ネズミより少し低い鳴き声で、こちらの方に駆け寄ってくる。

それを見て、剣士さんもさすがに覚悟を決めたのだろう。


「と、とりゃあああ!」


と情けない掛け声をあげて走っていく。

一瞬だけ、もしかしたらと思ったけれど……


「ぎゃああああああああ!!!」


チュラットに前足の爪でバリっと引っかかれただけで、5mほど回転しながら飛ばされてしまった。


うん、見た目通り弱いっ!


「大丈夫かい!?」


ガタイの良い女性は、彼に駆け寄ると『ヒール』という治療魔法を使って怪我を治した。

私も彼の様子を見に駆け寄ると……


「」


「あなたの場合、相手に攻撃される前にやられちゃってるから……、クエスト参加とか剣の特訓より、まずは体力つけるのが先かもね」


「文句言うなら、あなたが剣士として戦っては!?

剣を腰にぶら下げてるくせに、それを使わずに偉そうに説教しないでください!!」


剣士さんはそういうと、私に背を向けて黙り込んでしまった。

呆れて物が言えない。


「私だって、剣士で登録したかったわよ」


っていうか、私だって実力伴わない人にそんな批判をされる覚えはないわよ。

素直にアドバイスは受け取ってほしいものだわ。

ちなみにこの時、肩にいるウサギが小声でバレないように私の耳元で「弱いものほどよく吠えるって、こう言うことか」なんて呟いていたのは内緒だ。


「仕方ねーな、そいつの代わりに俺がやってやんよ」


そう言い出したのは、見た目に反してさっきまで文句の一つも言わずに静観していたチャラい格闘家。


彼は一歩前に出ると、指をポキポキと鳴らした後拳を作り、思いっきりチュラットに向かってかけていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る